SESエンジニアとして働いている方のなかで、クライアントからの作業指示に対して「何か違和感がある」と感じている方もいるかもしれません。
その違和感の正体は、実は法律上の問題である可能性があります。SESエンジニアという働き方の正しいルールを理解することは、自分の身を守り、より良いキャリアを築く上で欠かせません。
この記事では、SESエンジニアへの作業指示の法的側面を解説し、不適切な指示を受けたときにどう対処すべきか、そしてそのような悩みを抱えないための良い現場選びについてお伝えします。
SESエンジニアへの作業指示と法律の壁を知っておこう
SESエンジニアはクライアントのオフィスで働くことが多いため、クライアントの社員と同じようにクライアントから直接作業指示を受ける場面がよくあります。
しかしこの「作業指示」には法律上の大きな壁が存在します。この壁を理解することが作業指示に関する違和感の正体を知る第一歩となります。
参考：e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」
SESにおける指揮命令権は誰にあるのか
SESの契約形態は原則として「準委任契約」です。これは特定の業務の遂行を目的とし、労働力や時間に対して報酬が支払われる契約です。この契約形態では、指揮命令権は所属しているSES企業にあります。
一方で労働者派遣契約では、指揮命令権が派遣先のクライアントにあります。クライアントからの直接的な作業指示は準委任契約ではなく労働者派遣にあたる行為であり、SESエンジニアには原則として行われるべきではありません。
SESエンジニアへ違法な作業指示が行われる背景
クライアントからの不適切な作業指示は、なぜなくならないのでしょうか。その背景には、いくつかの理由があります。
- クライアント側の知識不足：SES（準委任契約）と労働者派遣の違いを正しく理解しておらず、SESエンジニアを自社の社員や派遣社員と同じように扱ってしまう。
- SES企業のコンプライアンス意識の低さ: 所属しているSES企業自体が、この法的問題を軽視している。トラブルを避けるためにクライアントの指示を黙認したり、契約内容をエンジニアに正しく説明していなかったりする。
上記のような点が原因となり、法的に問題のある作業指示が横行してしまうのです。
違法な作業指示の具体例
SESエンジニアが受けやすい「違法と判断される可能性のある作業指示」には、いくつかのパターンがあります。
例えば、以下のような状態です。
- 契約外の業務を強要される
- チームメンバーに残業するように指示される
- 直接クライアントの社員に成果物を評価される
これらは、本来指揮命令権をもつSES企業が行うべき管理・評価を、クライアント側が直接的に行っている行為であり準委任契約の範囲を逸脱していると見なされます。
もしこのような指示を受けた場合は、それが法的に問題がある可能性を認識し、冷静に対処することが重要です。
労働者派遣との見分け方
SES契約と労働者派遣契約は、見た目の働き方が似ているため見分けるのが難しいと感じるかもしれません。
もしかするとクライアントの現場社員が誰が準委任契約で誰が派遣契約なのか分かっておらず、異なるベンダーのメンバーに同時に指示してしまっている可能性もあります。
しかし、両者には明確な違いがあります。
まず指揮命令権の所在です。クライアントから直接業務の進め方や具体的なタスクについて指示を受ける場合は、派遣契約の可能性があります。
次に成果物の責任です。SESは成果物の完成義務がない一方で、派遣は指示に従って労働力を提供することが目的となります。そのため、準委任契約の人に対して「成果物が完成していないから残業してほしい」という指示は、そもそも契約上さまざまな面で問題があるのです。
最後に契約期間です。派遣社員には3年という期間制限があるため、長期的なプロジェクトの場合、契約の切り替わりなどに注意が必要です。
これらの違いを理解しておくことで、自分がどのような契約形態で働いているかを正しく把握することができます。
違法なSES作業指示を受けたときの正しい対処法とは
実際に不適切な作業指示を受けた際にどう行動すべきか、その解決策をステップ形式で解説します。
感情的に反応するのではなく、冷静に対応することが自分のキャリアを守るための鍵となります。
ステップ1：状況を記録し客観的な事実を把握
不適切な作業指示があったときにはまず、感情的にならずその状況を冷静に記録しましょう。
「いつ、どこで、誰から、どのような指示を受けたか」といった客観的な事実をメモしておきます。この記録は後で自社の営業担当者に相談する際の重要な証拠となります。
感情ではなく理性で事実を整理することで、自分が置かれている状況を冷静に分析でき、次の行動を計画する準備を整えることができます。
ステップ2：まずは自社の営業担当に相談する
違法な作業指示を受けた場合、クライアントと直接交渉するのではなく、自社の営業担当者に報告・相談することがもっとも重要です。
もし直接クライアントに伝えてしまうと、双方の間に不信感が生まれ、大きなトラブルに発展する可能性があります。
営業担当者はクライアントとの契約関係を管理する役割を担っています。自分の状況を正確に伝え、営業担当者からクライアントへ是正を促してもらうのが正しい手順です。
ステップ3：状況の是正を営業側から依頼してもらう
現場で仕事をしているエンジニア本人から「その指示は違法です」とは言いにくいものです。だからこそ、営業担当者が間に入り、状況の是正をクライアントに依頼してもらうことが重要です。
これは契約を正しく履行してもらうという意味でも重要なことです。営業担当者が法的な根拠をもとにクライアントと交渉することで不適切な作業指示が止まり、健全な労働環境を取り戻せる可能性があります。
ステップ4：違法状態が続くなら撤退も視野に入れる
万が一、営業担当者を通じて是正を求めてもクライアントが改善の姿勢を見せない場合は、自分の身を守るためにもその現場から撤退することを視野に入れるべきです。
違法な状態で働くことは当然ながら健全な状態ではありませんし、「命令系統」以外でも違法な状態になってしまう危険性もあります。
営業と連携しつつ、次の案件を探すための交渉を行いましょう。
ステップ5：状況改善が難しいと判断した場合の社内対応
営業担当者に相談しても状況が改善されない場合、もしくは営業担当者自身が協力的でない場合は、会社の労務担当部署や人事部、あるいは社内の相談窓口に連絡してみましょう。
会社によっては、営業担当者とは別にエンジニアのキャリアや労働環境について専門的に対応する部署が存在することがあります。
自分の抱えている問題が会社全体の問題として認識され、適切な部署が対応してくれる可能性があります。
この段階での対応は、単なる現場の問題解決だけでなく、会社全体のコンプライアンス意識を向上させることにもつながります。
ステップ6：法的専門機関への相談も視野に入れる
社内での対応が期待できない、もしくは会社自体が違法な状態を黙認しているような場合は、外部の専門機関に相談することも視野に入れるべきです。
労働基準監督署や弁護士に相談することで、法的な観点から自分の権利を守るための具体的なアドバイスを得られます。
こうした機関への相談は、会社への不信感が強い場合や、明らかに悪質なケースで有効です。ただし、法的措置をとることは現職での人間関係を悪化させるリスクもあるため、慎重に判断する必要があります。
ステップ7：別のSES企業への登録変更
指揮系統によっては、そのような法令を守らない作業指示を行うSES企業に在籍を続けた場合、自分が違反を犯して加害者側になってしまう可能性も否めません。
もしも違法な状態を是正してもらえず、また法的手続きで是正するのも労力がかかると感じる場合、素直に「SES企業そのものを変える」のも手段の一つです。
優良なSES企業であれば、法令順守の意識は高く、またそういった意識が高いクライアントを多く抱えています。問題ないSES企業を探し、登録を変えてみるのがおすすめです。
SESエンジニアが知っておくべき労働関連の法律
SESエンジニアとして働く上で、指揮命令権の問題以外にも知っておくべき労働関連の法律があります。
これらの知識は、自分の労働環境が健全であるか判断する上で役立ち、不当な扱いに直面した際に身を守るための武器となります。
労働基準法と残業代
労働基準法は、労働時間、賃金、休日など、労働者の権利を定めたもっとも基本的な法律です。SESエンジニアもこの法律の保護対象となります。
残業代は、1日8時間、週40時間を超える労働に対して支払われる賃金であり、企業はこれを正しく計算し支払う義務があります。
もし残業代が支払われていない、もしくは不当に低いと感じた場合は、労働基準監督署に相談することができます。
参考：法令検索「労働基準法」
ハラスメント防止法と職場環境
パワーハラスメント防止法により、職場における優越的な関係に基づく嫌がらせ行為は禁止されています。
これは、クライアントとSESエンジニアの関係にも適用されます。
もしクライアントの社員から業務を逸脱した不当な指示や言動、精神的苦痛を与えるような言動を受けた場合は、自社の営業担当者に相談し、適切な対応を求めることが重要です。
準委任契約の特性と労働時間の管理
準委任契約では、労働時間を厳密に管理する義務が企業にはありません。しかし多くのSES企業は労働時間や残業時間を管理し、その情報をクライアントに請求する際に使用しています。
もしあなたが「裁量労働制」や「みなし残業」といった働き方をしている場合、それが準委任契約に合致しているかどうかをよく確認する必要があります。
これらの制度は、本来であれば雇用契約に基づくものであり、準委任契約には適用されないことが一般的です。
良い現場はSESエンジニアへの作業指示が適正
違法な作業指示に悩まされないための根本的な解決策は、コンプライアンス意識が高く、健全なクライアントを抱えるSES企業に登録することです。
遵法意識が高いクライアントの案件にアサインされれば、違法な状態に悩まされることはないでしょう。
ここでは、そのような良い会社を見極めるポイントを解説します。
自社内へのコンプライアンス教育が徹底されているかを確認
良いSES企業は、エンジニアだけでなく営業担当者やクライアントに対しても、SESの契約内容や指揮命令権について正しく教育しています。
登録の際に行われる面談で「指揮命令権について、どのようにクライアントに説明していますか？」といった質問をしてみるのも良いでしょう。
営業担当がエンジニアの盾となってくれる会社を選ぶ
登録するSES企業を選ぶ際、現場で問題が起きたときにエンジニアに寄り添ってクライアントと交渉してくれる営業担当者がいるかどうかが重要です。
営業担当者と話す機会があれば、過去に同様のトラブルがあった場合の対応例などを聞いてみましょう。
SESエンジニアの働き方を最適化するための自己管理術
違法な作業指示といった外部要因だけでなく、SESエンジニア自身が主体的にキャリアを管理することも働き方を最適化する上で重要です。
ここでは、自分の価値を高め、不当な扱いにあいにくい状況をつくるための自己管理術を解説します。
定期的なキャリアプランの振り返り
SESエンジニアは、さまざまなプロジェクトを経験するなかで自分の強みや弱みを客観的に把握できるようになっていきます。半年に一度、キャリアプランを見直す日を設け、これまでの経験と将来の目標を照らし合わせましょう。
例えば、以下のような項目について整理することから始めるのがおすすめです。
- これまで経験した言語は何か。
- 次に習得したい技術は何か。
- 将来はスペシャリストになるか、マネジメントを目指すか。
上記のような点を整理し、次の案件を選ぶ際の軸を明確にします。これにより目的意識をもって仕事に取り組むことができるようになるでしょう。
スキルセットの可視化とポートフォリオ作成
自分のスキルを可視化することは、自分の市場価値を把握し、営業担当者との交渉を有利に進める上で非常に重要です。
これまで携わったプロジェクトでの役割、使用した技術、担当したフェーズなどを一覧にまとめ、いつでも提示できるようにしておきましょう。さらに、個人開発でポートフォリオを作成することで自己学習意欲と技術力もアピールできます。
これにより、「このエンジニアにはこういうスキルがあるから、この案件にアサインしよう」と営業担当者も判断しやすくなります。
積極的にフィードバックを求める姿勢
SESエンジニアは、客先では「外部の人間」として見られがちですが、自社内では重要な財産です。
現場でのパフォーマンスや貢献度について、自社の営業担当者や技術担当者に積極的にフィードバックを求めましょう。
- このプロジェクトでどんな貢献ができたか。
- 次にどんなスキルを伸ばすべきか。
- どのように自分を位置づけているのか。
上記のような質問をすることで、自分の強みと今後挑戦すべき課題を明確にできます。これにより得られた知見は、次の案件選びやスキルアップ計画に活かすことができるでしょう。
株式会社KAIZEN Tech Agentでコンプライアンスが遵守された適性なキャリアを築く
違法な作業指示に悩まされることなく、安心して働ける環境は必ず見つかります。現在の不満を、自分のキャリアを見つめ直す良い機会と捉えて行動に移してみましょう。
もし現在の会社そのものに不満があるなら、別のSES企業への登録も検討してみてください。
私たちKAIZEN Tech Agentも、SES企業として登録してくれたフリーランスエンジニアのみなさんと一緒に仕事をしています。そして私たちはあなたのキャリアを何よりも大切に考え、納得のいく案件で働けるように全力でサポートします。
違法な作業指示に悩んでいるなら、ぜひ一度私たちへご連絡ください
