企業がDX推進やクラウド移行を進める中で、外部エンジニアの活用は欠かせません。その契約方式として代表的なのがSESと派遣ですが、両者は契約形態や指揮命令権、労務管理の責任範囲が大きく異なります。ここを誤解すると、法令違反やトラブルに発展しかねません。
この記事では、SESと派遣の違いとリスクを回避するポイントを整理し、実際の事例も交えながら、自社に最適な契約方式を判断するための視点を解説します。
SESと派遣の違いを理解する理由

SESと派遣は一見似た仕組みに見えますが、契約形態や法的責任は大きく異なります。誤解したまま契約を結ぶと、偽装派遣や違法行為に発展し、企業に深刻なリスクをもたらしかねません。
ここでは、発注企業が違いを理解しておくべき理由を整理します。
- 法令違反を避けるため
- 指揮命令権を誤解しないため
- 経営リスクを防ぐため
法令違反を避けるため
派遣は「労働者派遣法」、SESは民法の「準委任契約」を根拠とする契約方式です。両者を取り違えると偽装派遣と見なされ、行政処分や罰則につながるおそれがあります。
典型的に問題になりやすいのは次の三点です。
- SES契約にもかかわらず発注側がエンジニアに直接指示を行う場合
- 契約書に明記した内容と現場運用が乖離している場合
- 契約形態を誤解して実態が派遣に近づいている場合
契約方式を誤解するとどのような場面で違反につながるのかを整理すると、次のように対比できます。
| リスク要因 | 派遣 | SES | 違反に発展するケース |
|---|---|---|---|
| 指揮命令 | 受入企業が直接 | 受託企業が管理 | SES契約下で発注側が直接指示を行う |
| 雇用主 | 派遣元企業 | 受託企業 | 契約上はSESでも雇用関係が派遣に近い |
| 法的根拠 | 労働者派遣法 | 民法(準委任契約) | 法的枠組みを誤解し実態と乖離する |
指揮命令権を誤解しないため
派遣は受入企業が、SESは受託企業の管理者が指示を行う仕組みです。この区別を誤解すると、偽装派遣や契約不適合と判断され、企業にリスクをもたらします。
企業が誤解しやすい典型的なケースは、以下の通りです。
- SES契約にもかかわらず発注企業が担当エンジニアに直接指示をする場合
- 役割分担があいまいで、誰が指示権限を持つか不明確な場合
- 契約書で指揮命令権の所在を明示せず、現場判断に委ねている場合
法的根拠や管理責任など、契約ごとの違いを一覧で整理しました。
| 項目 | 派遣 | SES | 誤解によるリスク事例 |
|---|---|---|---|
| 指揮命令 | 受入企業が直接指示 | 受託企業の管理者が指示 | 発注企業が直接指示を出すと「偽装派遣」と判断される |
| 雇用主 | 派遣元企業 | 受託企業 | 契約上SESなのに雇用関係が派遣に近づき、労務トラブル発生 |
| 法的根拠 | 労働者派遣法 | 民法(準委任契約) | 法的枠組みを誤解し、契約と運用が乖離して是正コストが増大 |
経営リスクを防ぐため
契約を誤れば、法令違反だけでなく訴訟リスクや追加費用、納期遅延など経営に直接的な損失をもたらします。こうしたリスクは早期に把握し、管理することが欠かせません。
企業が直面しやすいケースは、以下の通りです。
- 契約形態を誤解し、プロジェクトが中断して損害賠償に発展する
- 業務範囲や責任分担を曖昧にしたため、追加費用や品質トラブルが発生する
- 労務管理や監査体制が不十分で、是正コストが累積
例えば、SES契約を結んだにもかかわらず実態が派遣に近い運用となり、行政から是正指導を受けるケースがあります。この場合、契約書の修正や追加教育コストが発生し、予定外の数百万円規模の支出につながることもあります。
このように契約形態を誤解すると重大な損失につながるため、派遣とSESを経営リスクの観点から比較すると次のように整理できます。
| 項目 | 派遣 | SES | 誤解によるリスク事例 |
|---|---|---|---|
| 主なリスク | ・労務トラブル ・均衡待遇違反 |
・契約範囲の曖昧さ ・納期遅延 |
・企業が労務管理を怠ると訴訟・行政指導に発展 ・契約範囲を曖昧にすると追加費用が発生 |
| 発生要因 | 労務管理や均衡配慮の不足 | ・契約書の不備 ・要件変更 |
・契約書と現場運用の乖離が原因でトラブルに拡大 |
| 経営影響 | ・訴訟リスク ・行政指導 ・信用低下 |
・追加費用 ・顧客離反 ・信頼失墜 |
・信用失墜が長期的な顧客離脱につながる |
SESと派遣の法的な違い

SESと派遣の契約方式は、法律上の根拠や契約条項の扱いが大きく異なります。契約書には、契約形態や指揮命令権の所在、労働者保護の有無といった重要な要素が明記されており、ここを理解しないと適切な契約運用はできません。
ここでは、制度面から両者の違いを整理し、契約実務で注意すべき点を解説します。
- 契約形態はどのように定められているのか
- 指揮命令権は誰が行使するのか
- 労働者保護や福利厚生はどう扱われるのか
契約形態はどのように定められているのか
SESは民法を根拠とする準委任契約、派遣は労働者派遣法を根拠とする派遣契約です。両者を混同すると、請負や偽装派遣とみなされるリスクがあるため、契約形態の正しい理解が欠かせません。
例えば、 SES契約であるにもかかわらず「成果物の完成義務」を課してしまうと、実態は請負契約に近づき、契約違反や追加費用の原因となります。
誤解が生じやすいのは、次の三点です。
- SES契約で成果物の完成を義務付ける
- 派遣契約なのに、受入企業ではなく派遣先に業務責任を負わせる
- 契約書の内容と現場運用が一致していない
SESと派遣の契約形態を比較すると、次のように整理できます。
| 項目 | SES | 派遣 |
|---|---|---|
| 契約形態 | 準委任契約 | 労働者派遣契約 |
| 報酬基準 | 作業遂行 | 労働時間 |
| 法的根拠 | 民法 | 労働者派遣法 |
| 主な責任 | 善管注意義務 | 労務管理・社会保険加入 |
指揮命令権は誰が行使するのか
派遣は受入企業が直接指示を行い、SESは受託企業の管理者が指示を担います。この違いを誤解すると、偽装派遣や契約不適合とみなされ、企業に大きなリスクをもたらすでしょう。
例えば、 SES契約なのに発注企業が現場担当者に直接タスクを割り振ると、偽装派遣に該当する可能性があります。
誤解が起きやすいケースは以下の通りです。
- SES契約下で発注企業が直接タスクを指示する
- 指揮命令の権限が不明確で役割分担が曖昧になる
- 契約書で所在を明記せず現場判断に任せる
SESと派遣の指揮命令権を比較すると、次のように整理できます。
| 項目 | SES | 派遣 |
|---|---|---|
| 指揮命令を行う主体 | 受託企業の管理者 | 受入企業 |
| 管理責任 | 受託企業 | 受入企業 |
| 違反リスク | 偽装派遣 | 契約不履行・放任によるトラブル |
労働者保護や福利厚生はどう扱われるのか
派遣では社会保険加入や教育訓練が法的に義務化されていますが、SESでは受託企業の制度に依存します。この違いを理解せず契約すると、労務責任が不明確になり、トラブルにつながりかねません。
例えば、 SES契約で教育制度が整っていない場合、スキル不足のエンジニアがアサインされ、納期遅延や品質トラブルを招くケースがあります。
注意すべきケースは、以下の通りです。
- 派遣契約で、派遣元が社会保険や教育訓練を怠る
- SES契約で、受託企業に研修制度がなくスキル不足が発生
- 発注企業が労務管理範囲を誤解し、契約外の責任を負うと認識してしまう
労働者保護や福利厚生の観点から整理すると、次のように対比できます。
| 項目 | SES | 派遣 |
|---|---|---|
| 雇用主 | 受託企業 | 派遣元企業 |
| 法的保護 | 民法(準委任契約)に基づく | 労働者派遣法に基づく |
| 福利厚生 | 企業ごとに制度が異なる | 社会保険・教育訓練が法的に義務化 |
| リスク | 保護が不十分になる可能性 | 義務違反による法的処分 |
SESと派遣の判断基準と選び方

SESと派遣は契約の仕組みが異なるため、案件の内容や目的に応じて正しく選ぶ必要があります。判断を誤るとコスト増や品質低下につながり、場合によっては偽装派遣とみなされるリスクもあるためです。逆に、自社の状況に合った契約を選べば、安定した人材確保と経営リスクの軽減につながります。
ここでは、以下の観点から判断の基準を整理します。
- 業務内容
- 契約期間とスキル要件
- コストと管理負担
業務内容
日常的な運用や保守などの定常業務は派遣、専門性の高い開発やプロジェクト型の業務はSESが適しています。業務特性を見誤ると、不適切な契約となりコストや品質の問題につながります。
例えば、 システム保守をSES契約で発注した結果、工数管理が曖昧になりコストが膨らんだケースがあります。一方で、クラウド移行やAI導入プロジェクトではSESを活用し、短期間で専門スキルを取り入れて成功した事例もあります。
SESと派遣の活用場面を比較すると、次のように整理できます。
| 項目 | SES | 派遣 |
|---|---|---|
| 主な活用場面 | 保守・運用・定常作業 | 開発・設計・プロジェクト型業務 |
| 管理主体 | 受入企業 | 受託企業 |
| 契約上のポイント | 労務管理を派遣先が担う | 業務遂行責任を受託側が担う |
契約期間とスキル要件
短期で人手を補うなら派遣、長期的にノウハウを蓄積したい場合や専門スキルが必要な場合はSESが有効です。整理せずに契約すると、コスト増や品質低下につながります。
例えば、 短期的な繁忙対応をSESで契約した結果、スキル過多となり費用対効果が悪化したケースがあります。逆に、クラウド基盤の長期運用を派遣で依頼したところスキル不足が露呈し、結局SESに切り替えて安定運用に至った例もあります。
契約期間とスキル要件を比較すると、次のように整理できます。
| 項目 | SES | 派遣 |
|---|---|---|
| 契約期間 | 短期に強い | 長期に適する |
| スキル要件 | 一般的・汎用的 | 特定分野に特化 |
| リスク | 長期利用はコスト増や法的制約 | スキル依存による成果変動 |
コストと管理負担
派遣は時間単価で費用が発生し、管理負担は大きいものの透明性があります。SESは契約範囲に基づくため管理負担は軽減できますが、内容が曖昧だと追加費用が発生しやすいのが特徴です。
例えば、 ある企業では派遣を活用して稼働管理を徹底した結果、工数の透明性は確保できたものの、残業増加でコストが跳ね上がりました。別の企業ではSES契約の範囲を曖昧にしたため、追加要件が次々発生し、想定以上の費用がかかったケースがあります。
コストと管理負担を比較すると、次のように整理できます。
| 項目 | SES | 派遣 |
|---|---|---|
| 費用発生 | 時間単価ベース | 契約範囲ベース |
| 管理負担 | 稼働を逐一管理する必要あり | 契約で範囲を定義すれば軽減 |
| リスク | 稼働過多でコスト増 | 範囲曖昧で追加費用 |
SESと派遣のメリットとデメリット

SESと派遣は人材活用の手段として広く利用されていますが、適している場面は大きく異なります。どちらもメリットとデメリットがあるため、特徴を理解しないと契約選択を誤り、コストや品質に影響しかねません。
ここでは両者の強みと弱みを整理し、自社の課題やプロジェクト内容に応じた契約判断の参考にします。
SESのメリット
SESは外部人材を通じて、自社だけでは補いにくい専門スキルや知見を短期間で取り入れられる契約方式です。特にDXやクラウド移行、AI関連のプロジェクトで有効に活用されています。
例えば、 製造業の企業がクラウド基盤への移行をSESで委託し、社内にない専門スキルを短期間で補完した結果、予定より早く稼働を開始できたケースがあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 高度な技術力の確保 | 最新の技術や特定分野に精通したエンジニアを短期間でアサイン可能 |
| 柔軟な稼働調整 | プロジェクト単位で契約し、必要な期間だけ活用できる |
| 外部ノウハウの導入 | 開発プロセスや改善提案など、社内にない知見を取り入れられる |
SESのデメリット
SESは柔軟性が高い一方で、契約や運用を誤ると法的トラブルや追加コストの原因になります。
例えば、 SES契約にもかかわらず発注企業が現場エンジニアに直接指示を出し、偽装派遣とみなされ是正指導を受けたケースがあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 偽装派遣リスク | 発注企業がエンジニアに直接指示を行うと、派遣とみなされる可能性がある |
| 契約範囲の曖昧さ | 成果物や責任範囲が不明確だと、追加費用や納期遅延につながる |
| 情報セキュリティ | 外部人材利用により機密情報漏洩のリスクが高まる |
派遣のメリット
派遣は即戦力人材を迅速に補充でき、労務管理の仕組みも明確です。定常業務や短期的な繁忙対応に適しています。
例えば、 コールセンター運営企業が繁忙期に派遣を活用し、短期間で人員を補充してサービス品質を維持したケースがあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 即戦力の補充 | 定常業務やサポート業務に必要な人材を迅速に確保可能 |
| コストの透明性 | 時間ベースでの単価契約のため費用を把握しやすい |
| 管理の明確さ | 受入企業の指揮命令下で勤務するため管理がシンプル |
派遣のデメリット
派遣は短期補充には有効ですが、専門性や長期的なノウハウ蓄積には不向きです。
例えば、 システム開発を派遣で依頼した企業が、長期的な知識共有が進まず品質低下につながったケースがあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 専門性の制約 | 特定分野の知見を持つ人材は確保しにくい |
| 長期利用の難しさ | 契約期間に制限があり、長期的なノウハウ蓄積が困難 |
| 法令遵守の負担 | 労働者派遣法に基づく労務管理を怠ると、罰則や行政指導の対象となる |
SESと派遣のリスク対策と運用ポイント

SESと派遣を安全に活用するには、契約内容の曖昧さや現場運用の誤りを防ぐことが重要です。発注側と受託側の責任分担を明確にし、定期的な報告や教育体制を組み込むことで、トラブル発生を大幅に抑えられます。
ここでは、企業が押さえておくべきリスク対策と実践ポイントを整理します。
- SES利用時のリスクと対策
- 派遣利用時のリスクと対策
- SESと派遣の運用ポイント
SES利用時のリスクと対策
SESは専門スキルを柔軟に活用できる一方で、契約や運用を誤ると大きなトラブルに発展します。特に指揮命令系統の誤解や契約範囲の曖昧さは、偽装派遣や追加コストの原因となりやすいです。
例えば、 SES契約で業務範囲を曖昧にした企業では、追加作業が次々に発生し、想定以上の費用がかかったケースがあります。
以下に、SES利用時の代表的なリスクと有効な対策を整理しました。
| リスク | 対策 |
|---|---|
| 発注企業がエンジニアに直接指示を行い、偽装派遣とみなされる | ・契約書に指揮命令系統を明記する ・窓口担当者を一本化する |
| 契約範囲や成果物が曖昧で、追加費用や納期遅延が発生する | ・業務範囲や成果物を契約で具体的に定義する ・変更点は合意書やチケットで管理する |
| 外部人材の利用により、機密情報が漏洩する | ・NDAを締結する ・アクセス権限を制御する ・定期的なセキュリティ研修を徹底する |
派遣利用時のリスクと対策
派遣は人材を迅速に補充できる契約方式ですが、労務管理や法令遵守を怠ると違法性が問われます。特に業務範囲の逸脱や労働条件の不備は重大なリスクとなります。
例えば、 派遣契約で請負に近い業務を依頼した結果、偽装請負と判断され、是正指導を受けた企業もあります。
以下に、派遣利用時の代表的なリスクと有効な対策を整理しました。
| リスク | 対策 |
|---|---|
| 請負に近い業務を依頼すると、偽装請負とみなされる | ・業務内容を派遣の範囲に限定する ・契約書に役割と責任を明確に記載する |
| 労働基準法や労働者派遣法を逸脱し、法令違反に発展する | ・労働時間を適切に管理する ・均衡待遇を遵守する ・関連法令を確認し運用に反映する |
| 労務管理の不備により、労使トラブルや監査指摘が発生する | ・派遣元と連携して労務管理を徹底する ・勤怠記録や管理体制を整備する |
SESと派遣の運用ポイント
契約方式を問わず、安定した人材活用のためには運用ルールの整備が欠かせません。責任分担を明確にし、情報共有と教育を仕組み化することでトラブルを防止できます。
例えば、 あるIT企業ではSES利用時に「月次レビュー+セキュリティ教育」を義務化し、トラブル件数を半減させました。
以下に、運用ポイントを整理しました。
| 運用ポイント | 実践内容 |
|---|---|
| 契約の明確化 | 契約書に業務範囲・責任を具体的に記載 |
| 情報共有 | 定期的な進捗報告、コミュニケーションの場を設置 |
| 教育と管理体制 | セキュリティ研修や教育プログラムを整備 |
SESと派遣の違いを理解して自社の信頼を守ろう
SESと派遣は、契約形態も責任の持ち方もまったく違います。そこを誤解してしまうと、気付かないうちに法令違反やトラブルにつながってしまうかもしれません。でも逆に、自社に合った契約を選べば、人材活用の幅はぐっと広がります。
人脈や紹介、専門会社との連携、公的なサポート制度を上手に取り入れれば、安定した人材確保にもつながるでしょう。次の一歩としては、信頼できるパートナーに相談してみるのがおすすめです。
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