「AI開発に取り組みたいが、初期投資の負担が大きく踏み出せない」「補助金制度があると聞くが、どれを選べばいいのかわからない」と悩む中小企業の担当者も少なくありません。
その不安の背景には、研究開発費や人件費、設備投資など多額のコストがかかる一方、自社だけでの資金調達は難しく、利用可能な補助金も複数あるため選定や申請のハードルが高いことがあります。
経済的負担を軽減し、AIによる生産性向上や業務効率化を実現するには、補助金制度の種類や特徴、申請プロセス、注意点を正しく理解することが重要です。
本記事では、AI開発に活用できる補助金の概要、2025年版おすすめ補助金一覧、申請から交付までの流れ、利用時の注意点を解説します。
AI開発の補助金とは?

AI開発の補助金は、国や地方自治体がAI技術の導入や開発を促進するために提供する資金援助制度です。
初期投資の経済的負担を減らし、特に資金力に乏しい中小企業がAIに挑戦する大きな後押しとなります。採択されると、AI開発費用の一部がカバーされ、技術開発の加速や市場競争力の向上につながります。
これにより、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を促し、社会全体の生産性向上を目指します。
AI開発におすすめの補助金一覧

AI導入を検討する企業にとって、補助金の選定は最初の関門です。制度ごとに対象事業や補助率、上限額が異なるため、自社に合ったものを選ぶことが重要です。次に、AI開発に活用できる主要な補助金を紹介します。
新事業進出補助金
新事業進出補助金は、既存事業とは異なる分野への新たなチャレンジを後押しする制度で、AIを活用した革新的なビジネスモデルの構築も支援対象に含まれます。補助金の下限は750万円とされており、ある程度の規模を想定したプロジェクトに適しています。
申請には、付加価値額の年平均成長率を4.0%以上にするという目標に加えて、賃上げ計画の策定が必須です。例えば、地域別最低賃金より30円以上高い事業所内最低賃金を設定し、給与支給総額も増やす必要があります。
また、「次世代育成支援対策推進法」に基づいた一般事業主行動計画の公表も求められ、企業としての成長と従業員の働きやすさの両立が重視されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 新市場・高付加価値事業への進出を行う中小企業等 |
| 補助上限額 | 従業員20人以下:2,500万円 従業員21~50人:4,000万円 従業員51~100人:5,500万円 従業員101人以上:7,000万円 ※大幅賃上げ特例適用で上乗せあり |
| 補助率 | 1/2 |
| 対象経費 | 機械装置・システム構築費、建物費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、広告宣伝・販売促進費 |
中小企業省力化投資補助金
中小企業省力化投資補助金は、人手不足の解消に向けた省力化投資を支援する制度で、AIによる自動化や業務効率化システムの導入に活用できます。
申請は「カタログ注文型」と「一般型」の2種類に分かれており、カタログ注文型では、汎用製品の中から選択し、随時申請が可能です。一方、一般型は、個別現場に合わせたオーダーメイドの設備やシステムを導入するための支援で、公募期間中に申請します。
審査基準も異なり、カタログ注文型は「省力化指数」のみで評価されるため比較的シンプルですが、一般型では、省力化指数に加え、付加価値増加率・投資効率・オーダーメイド性など、複数の観点から総合的に審査されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 人手不足に悩む中小企業等 |
| 補助上限額 | カタログ注文型:最大1,500万円 一般型:最大1億円 |
| 補助率 | 最大2/3 |
| 対象経費 | カタログ注文型:製品本体価格、導入経費 一般型:機械装置・システム構築費、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、外注費、知的財産権等関連経費 |
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、製造業やサービス業の革新を支援する制度で、AI検査システムやデータ活用基盤の導入に活用できます。単価50万円以上の設備投資が必須で、本格的なシステム構築に適しています。
申請には、事業計画期間終了後3〜5年間で付加価値額を年平均3.0%以上増加させる計画が必要です。
加えて、賃金増加や地域別最低賃金より30円以上高い水準の維持が求められ、未達成の場合は補助金の返還義務が生じます。
大幅な賃上げを行う事業者には、従業員数に応じて最大1,000万円の補助上限引上げ特例があります。電子申請にはGビズIDプライムが必要なため、早めの取得準備が重要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 革新的な新製品・新サービス開発や海外需要開拓を行う中小企業者等 |
| 補助上限額 | 製品・サービス高付加価値化枠:従業員5人以下 750万円、6~20人 1,000万円、21~50人 1,500万円、51人以上 2,500万円 グローバル枠:3,000万円 |
| 補助率 | 中小企業:1/2 小規模企業・小規模事業者:2/3 |
| 対象経費 | 機械装置・システム構築費(必須)、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、原材料費、外注費、知的財産権等関連経費 |
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、小規模企業や個人事業主の販路開拓やデジタル化投資を支援する制度です。従業員が少ない事業者向けで、少額の投資でも申請しやすいのが特徴です。
通常枠の上限は50万円ですが、賃金引上げや創業などの条件を満たせば最大200万円、インボイス制度対応にはさらに50万円が加算されます。申請には経営計画の策定が必要ですが、商工会の支援が受けられるため初めての申請でも取り組みやすい制度です。
申請は1枠のみで、賃金引上げ枠などは補助事業終了時に要件を満たさないと交付されないため注意が必要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 小規模事業者(商業・サービス業は従業員5人以下、製造業その他は従業員20人以下) |
| 補助上限額 | 通常枠:50万円 賃金引上げ枠・卒業枠・後継者支援枠・創業枠:200万円 ※インボイス特例適用で50万円上乗せ |
| 補助率 | 2/3(賃金引上げ枠の赤字事業者は3/4) |
| 対象経費 | 販路開拓の取組み等に係る経費 |
IT導入補助金
IT導入補助金は、中小企業のデジタル化やDXを支援する制度で、AIやSaaSの導入費用の一部を補助します。IT導入支援事業者と連携し、事前登録されたITツールのみが対象です。
通常枠で業務プロセスが4つ以上ある場合は、賃金引上げ計画が必要で、給与支給総額の年平均1.5%以上増加や、最低賃金プラス30円以上の設定が求められます。
2025年度は、最低賃金近傍の事業者への補助率引上げや、導入後の活用支援、セキュリティ対策の強化が図られました。クラウド利用料は最大2年分が対象となり、長期的な活用を見据えた申請が可能です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 中小企業・小規模事業者等 |
| 補助上限額 | 通常枠:5万円~450万円 インボイス枠(インボイス対応類型):最大350万円 セキュリティ対策推進枠:5万円~150万円 |
| 補助率 | 通常枠:1/2(最低賃金近傍の事業者は2/3) インボイス枠:2/3~3/4、小規模事業者⅘ セキュリティ対策推進枠:中小企業1/2、小規模事業者2/3 |
| 対象経費 | ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)、導入関連費(導入後の活用支援含む)、ハードウェア購入費(インボイス枠のみ) |
事業再構築補助金
事業再構築補助金は、ポストコロナ時代の変化に対応し、新市場進出や事業転換などの再構築を支援する制度です。
AI関連では、成長分野進出枠(通常類型・GX進出類型)の活用により、新規事業や既存事業のDX化に必要な設備・システム導入費用が補助されます。
申請には事業計画書と金融機関等の確認が必要で、採択率は約26%と高くはありません。有望性・実現可能性・補助の必要性を明確に示すことが重要です。なお、交付決定前の設備購入は補助対象外となるため注意が必要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 新市場進出・事業転換等を行う中小企業・中堅企業 |
| 補助上限額 | 100万円~最大1.5億円(従業員数・事業類型により変動) |
| 補助率 | 中小企業:1/2~3/4、中堅企業:1/3~2/3 |
| 対象経費 | 建物費、機械装置・システム構築費、技術導入費、専門家経費、外注費、クラウドサービス利用費、研修費など |
デジタルツール導入促進緊急支援事業(東京都)
デジタルツール導入促進緊急支援事業は、都内中小企業のデジタル化を支援する制度です。AI開発では、クラウド会計ソフトやRPA、マーケティングオートメーションなどのパッケージ製品やクラウドサービスが対象です。
助成期間は2年間、募集は令和7年10月27日まで。専門家による無料のフォローアップ支援(最大5回)も受けられます。PCや汎用ソフト、スクラッチ開発は対象外です。申請にはgBizIDプライムの取得と、jGrantsでの電子申請が必要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 都内中小企業者等(会社・個人事業主・中小企業団体) |
| 補助上限額 | 最大100万円(下限額5万円) |
| 補助率 | 助成対象経費の1/2以内(小規模企業者は2/3以内) |
| 対象経費 | デジタルツール本体購入費、初期設定・カスタマイズ・運用保守サポート費用(関連経費上限50万円) |
AI開発の補助金を申請するときの流れ

補助金を活用するには、申請から交付までの流れを理解することが欠かせません。準備不足は不採択の原因にもなるため、計画的に進める必要があります。ここでは、申請プロセスを4ステップで解説します。
公募要領の確認と申請準備
補助金申請の第一歩は、公募要領を徹底的に確認することです。これにより、補助金の対象となる事業や経費、申請期間といった基本情報を把握できます。
また、必要書類や申請様式を事前に確認し、滞りなく準備を進められるよう計画を立てましょう。次に、自社のAI導入計画が補助金の要件に合致するか精査することが重要です。
この段階で、対象となる経費(例:ソフトウェア購入費、専門家の費用)や事業内容が要件に沿っているかを厳密にチェックすることで、後のプロセスがスムーズになります。
事業計画書の作成
補助金の審査において最も重要視されるのが事業計画書です。この書類の完成度が、採択率を大きく左右すると言っても過言ではありません。
事業計画書では、AI導入の目的を明確にし、それによってどのような効果が期待できるのかを具体的に示します。たとえば、「AIによるデータ分析で生産ラインの不良品率を〇%削減する」といった、数値目標を盛り込むことがポイントです。
また、事業の持続性や革新性、そして市場や地域社会に与える波及効果も評価の対象となります。説得力のある事業計画書を作成するためには、自社の強みとAI技術を組み合わせ、具体的なビジョンを明確に提示することが不可欠です。
申請書の提出と審査プロセス
公募要領に沿って必要書類が整ったら、いよいよ申請書の提出です。多くの補助金はオンラインでの電子申請が基本となっているため、事前に申請システムの操作方法を確認しておくことが推奨されます。
提出期限は厳守しなければなりません。その後、審査プロセスに入りますが、ここでは事業計画の実現性と、その事業が社会全体にどのようなプラスの影響をもたらすかという波及効果が評価のポイントです。
また、申請書類の内容に不備がないか、記載された数値が妥当であるかなども厳しくチェックされます。採択率を少しでも向上させるためには、事業計画の客観性を高めるために、専門家(中小企業診断士など)にチェックを依頼することも有効な手段です。
採択後の実施・報告・補助金交付
無事に採択されたら、事業計画書に沿ってAI導入プロジェクトを進めます。この段階では、経費の支払いに関する請求書や領収書といった証憑(しょうひょう)書類を漏れなく管理することが極めて重要です。
事業完了後には、事業の成果と経費の使用状況をまとめた実績報告書を提出し、事業の透明性を確保する必要があります。提出された報告書は、事務局によって確認され、問題がなければ補助金が後払いで交付されます。
そのため、事業開始から補助金が実際に振り込まれるまでの間は、自社で資金を立て替える必要があることを念頭に置いておきましょう。計画的に事業を進行させることが、補助金交付への最終ステップです。
AI開発で補助金制度を利用する際の注意点

補助金制度は非常に有用ですが、申請条件や交付要件を誤るとトラブルにつながることもあります。特に資金の流れや経費区分には注意が必要です。次に、利用時に押さえるべき注意点を整理します。
補助金は後払い
補助金は「実績に基づいて支給される公的支援」であり、事業完了後に交付される後払い方式です。そのため、資金繰りへの十分な配慮が必要です。
たとえば事業再構築補助金では、交付決定後に12〜14ヶ月の実施期間を経て実績報告を提出し、審査完了後に初めて入金されます。
つまり、事業費はすべて自己資金で一時的に立て替える必要があります。補助上限1,500万円でも、総事業費3,000万円を先に負担することになります。
このため、つなぎ資金の確保や金融機関からの融資など、事前の資金計画が不可欠です。資金が尽きて事業が中断すれば補助金も受け取れず、投資が無駄になる恐れがあります。自己資金の準備状況を十分に確認した上での活用が求められます。
申請内容と事業に齟齬があると、補助金は交付されない
補助金は申請時の計画に基づいて審査されるため、実施内容にズレがあると交付されない、または返還が求められます。
例えば、事業再構築補助金では、生産管理AIを申請したのに在庫管理システムを導入した場合、同額の投資であっても対象外となります。これは不正受給とみなされる可能性があります。
やむを得ず計画を変更する場合は、必ず事前に事務局へ申請し、承認を得る必要があります。実績報告では導入内容や稼働状況が確認されるため、報告との不一致はすぐに発覚し、補助金返還の対象となります。計画の正確な実行と情報の整合性が求められます。
補助金には対象となる経費の範囲が定められている
各補助金には、補助対象となる経費の範囲が明確に定められています。対象外経費を含めた場合には、不採択や補助金返還の原因となる可能性があります。これは、公的資金を適切に活用するため、支出の範囲を厳密に限定する必要があるためです。
例えば、AI関連費用については、以下のような違いがあります。
- IT導入補助金:パッケージソフトは対象だが、スクラッチ開発は対象外
- 事業再構築補助金:機械装置・システム構築費は対象だが、汎用PC・タブレットは対象外
- デジタルツール導入促進支援事業:クラウドサービスは対象だが、OSやセキュリティソフトは対象外
見積もり段階から対象経費を正確に区分し、不明な点があれば事前に事務局へ確認することが重要です。経費の誤認識は、採択後でも補助金の減額や返還につながるリスクがあるため、慎重な確認が求められます。
経済産業省が発表した「AI事業者ガイドライン」について
AI導入を検討する企業は、経済産業省の「AI事業者ガイドライン」を理解し、遵守することが重要です。
これは、AI活用における透明性・説明責任・公平性を確保し、社会的信頼を得るための指針です。ガイドラインでは、AIの開発・運用において以下の基準が求められています。
- セキュリティ対策とデータ保護の徹底
- アルゴリズムの透明性と説明責任
- 差別やバイアスの排除
- 人間による監視・介入の確保
例えば、製造業で品質検査AIを導入する場合、不良品の判定理由を説明できる仕組みや、誤判定への人的対応プロセスが必要です。
また、2024年4月に発表された経済安全保障推進法に基づくAI計算資源整備事業では、最大725億円の助成が決定されました。
こうした補助金を活用する際にも、ガイドライン遵守が審査基準となる可能性が高まっており、導入企業には技術面だけでなく倫理・運用面での対応も求められます。
参考:経済安全保障推進法に基づくクラウドプログラムの安定供給確保に係る供給確保計画の認定等について
AI開発プロセスを補助金で加速させよう
AI開発を成功させるには、補助金を正しく活用することが不可欠です。自社に合った制度を選び、計画的に進めれば、資金面の不安を解消しながらAI導入の実現性を高められます。
この記事では、AI開発に使える補助金の基礎知識から、2025年注目の補助金7選、申請から交付までの流れ、注意点までを分かりやすく解説しました。
特に重要なのは「後払い方式への対応」「申請と実施内容の一致」「対象経費の理解」です。さらに、公募要領の精読、事業計画書の説得力、証憑管理、ガイドラインの遵守も採択率を左右します。
AI導入やDXに関するご相談は、KAIZEN Tech Agentにお任せください。豊富な知見と先端技術で、成長に寄り添う最適解をご提案します。
