IT人材の採用を成功させたいが、日々発生する煩雑な定型業務に追われ、戦略を練る時間がもてない。多くの企業の人事担当者がこのようなジレンマに直面しており、なかには疲弊を感じている方もいるかもしれません。

人事業務の効率化は単なる業務削減ではなく、人材採用というコア業務にリソースを振り向け、企業の競争優位性を確立するための重要な経営課題の一つです。

人事業務の効率化を成功させるためには、ITツールの導入、業務の見直し、そして人事業務のアウトソーシング(BPO)を組み合わせた論理的なステップを踏む必要があります。

本記事では人事業務の効率化が求められる背景、具体的な効率化の手法、そして特に採用BPOを活用して工数集中の課題を解決するための具体的なポイントまで解説します。

なぜ人事業務の効率化が求められるのか

現代の企業経営において、人事業務の効率化はコスト削減という短期的な目標を超え、企業の中長期的な競争優位性を確保するために重要なテーマとなっています。

人事業務を効率化することで、人事部門は、経営課題に直結する戦略的な活動に時間とリソースを振り向けられるようになります。

なぜ今このような人事業務の効率化が注目されているのか、その背景を確認しておきましょう。

煩雑な定型業務がコアな人事戦略を阻害している

人事部門の日常業務のすべてを占めるノンコア業務は、企業価値創造に直結しないものの正確性が求められ、時間と工数を大量に消費します。

ノンコア業務の例は以下の通りです。

  • 毎月の給与計算、勤怠データの集計
  • 入社・退社時の社会保険手続き
  • 応募者への連絡、面接日程調整

これらの定型業務はもちろん重要ですが、これらの業務を「こなすこと」に追われることで、人事担当者は本来もっとも注力すべき以下のコアな人事戦略に手が回らなくなります。

手が回らなくなってしまうコア人事戦略の例は以下の通りです。

  • 企業の人材戦略、組織開発の立案
  • IT人材の採用戦略の策定
  • 人材育成プログラムの設計

結果として企業の組織能力の向上や競争力の源泉となる優秀な人材の獲得が遅れてしまいます。

法改正によるコンプライアンスリスクの増大

近年、労働法制や社会保険関連の法改正、さらにはフリーランスを保護するための新しい法律(例:フリーランス新法)の施行など、労務関連のルールはさまざまに変化しています。

コンプライアンスリスク増大の理由として以下のような要因が挙げられます。

  • 専門知識の不足:専門知識をもたない担当者による業務は、法改正への対応遅れや、手続きのミスを誘発し、コンプライアンスリスクを高める。
  • 働き方の多様化:正社員だけでなく、契約社員、派遣社員、業務委託、フリーランスなどさまざまな働き方が取り入れられるようになった。
  • 労働関連の法律の変化や複雑化:さまざまな契約形態における労働条件や取引の適正化に関わる法律が増えており、契約管理の難易度が上昇している。

人事業務を効率化し、専門性をもつ外部の知見を取り入れることは、法令遵守の体制を強化し、企業の信頼を守ることにつながるのです。

採用競争の激化による業務負荷の集中

高度IT人材をはじめとした専門人材の採用市場は、競争が激しく、採用活動一つひとつにかかる工数と難易度が高まっています。

採用業務において負荷が集中するポイントは以下の通りです。

  • 母集団形成:ダイレクトリクルーティングにおける大量のスカウトメールの送信とその管理
  • 応募者対応:応募者との迅速で丁寧なコミュニケーションや、煩雑な面接日程調整
  • 選考プロセス管理:選考データの収集と、次のアクションへの移行

これらの業務は時期や応募者数によって工数が激しく変動するため、人事全体のボトルネックになりやすい傾向があります。人事業務の効率化は、この工数集中を解消し、変動に強い柔軟な体制を構築することを可能にするのです。

専門化するスキルを人事が評価しきれない

特にIT人材の採用においては、求められる技術が専門化しており、人事部門の担当者だけで候補者の真のスキルや適性を正確に評価しきれないという課題があります。

評価の困難性を生む要因は以下の通りです。

  • 技術理解が困難:人事担当者がプログラミング言語やインフラ技術といった専門分野の知識をすべて理解するのは難しい。
  • 現場評価とのミスマッチリスク:人事評価と現場の評価にズレが生じ、入社後にミスマッチが発覚するリスクが高まる。

また、ほかの職種と比較して専門性が高い人材は特に、自分の業務内容を理解してくれない、あるいはできない現場を忌避する傾向があります。

このような専門性の高い領域において、RPOなどの外部の専門家を活用し、評価プロセスを効率化・高度化することは、採用の質を向上させることにつながるのです。

人事業務の効率化を成功させるための具体的なステップ

人事業務の効率化は、漠然と「システムを導入する」ことから始めるのではなく、現状の業務を客観的に把握し、論理的な手順を踏むことで成功確率が高まります。

ここでは、人事業務効率化の具体的なステップを5つの段階に分けて解説していきます。

1.すべての業務を洗い出し「ノンコア業務」を特定する

効率化の最初のステップは、現状の業務を棚卸しし業務を分類することです。

業務の棚卸しで可視化すべき項目は以下の通りです。

  • 業務フロー:業務の開始から完了までの具体的な手順
  • 担当者:その業務を誰が行っているか
  • 所要工数:どれくらいの時間を費やしているか(月間、年間)
  • 発生頻度:毎日、毎月、四半期ごとなど、どれくらいの頻度で発生するか
  • 定型性:手順が固定化されているか(ノンコア業務の判断基準)

この棚卸しによって、「時間がかかっているのに、企業の戦略的価値が低い、定型の業務」を特定します。

2.どの業務を効率化するか優先順位を決める

すべての業務を同時に効率化しようとすると、リソースが分散し失敗しやすくなります。洗い出したノンコア業務のなかから、もっとも効果の高い業務に絞って優先順位を決定しましょう。

優先順位決定の判断基準は以下の通りです。

  • 工数削減効果:削減できる工数がもっとも大きい業務を優先する。
  • コンプライアンスリスク:法改正への対応が遅れるなど、リスクが高い業務を優先する。
  • 戦略への影響:効率化によってコア業務への時間がどれくらい創出されるかを考慮する。

この段階で、「この業務は細かくやり過ぎていないか」「そもそもその業務は必要なのか」という視点で、業務の廃止や別部署への役割の移譲も検討します。

3.効率化の手法と目標値を設定する

優先順位を決めた業務に対し、「どのような手法」で効率化を図り、「どうなったら達成できたか」を数値で目標設定します。効率化の手法によって、設定すべき目標値は変わります。

効率化手法と目標値の設定例は以下の通りです。

  • ITツール導入:勤怠管理システム導入により、手作業による集計時間を30%削減する。
  • アウトソーシング:採用日程調整業務をBPOに移管することで、人事担当者の採用関連業務工数を月間80時間削減する。
  • オミット(廃止):不要な資料作成を廃止し、月間工数を10時間削減する。

特にツール導入やアウトソースなどで費用をかける場合、自分たちが実施した場合の時間対効果とアウトソースした場合の費用対効果を費用として数値化し、時間と費用のバランスが悪化しないようにすることが重要です。

4.施策の実行・検証を行う

施策の実行段階では、事前に設定した計画通りに施策を進めることに集中します。

実行段階で重視することは以下の通りです。

  • 計画の遵守:優先順位がもっとも高い業務から、設定した手法を試す。
  • 情報の共有:施策の変更点や進捗を、関係部署や従業員にすべて共有する。

この段階では「実行する」ことに徹し、計画外の変更は最小限に留めるようにしましょう。

5.効果検証と標準化を行う

前工程の「施策の実行・検証を行う」では、「実行することに徹する」とお伝えしました。

その理由は、評価や改善はこの工程で行うためです。

施策の実行後は、必ず効果検証を行い、成功した改善策を全社的な業務フローとして定着させましょう。

効果検証と標準化のステップは以下の通りです。

  • 目標達成度の確認:定期的に、設定した数値目標(例:80時間削減)をクリアできたかをデータに基づいて確認する。
  • 成功事例の横展開:特定の部門で成功した改善策を、他の部門や業務にも展開する。
  • 業務フローの更新:改善後の業務手順をマニュアルとして標準化し、すべての担当者が同じ手順で業務を遂行できるようにする。

このPDCAサイクルを回すことで、人事業務の効率化が一過性のイベントで終わることなく、組織文化として定着します。

人事業務を効率化する主な手法

人事業務の効率化を図る手法はさまざまなものがありますが、ここでは基本的な効率化の手法を解説します。

まずどのような手法で効率化に着手すべきかの参考にしてみてください。

ITツールによるデータ一元管理

バラバラに管理されている従業員データや採用応募者情報を、クラウド型のシステムに統合することは効率化の基本といえます。

ITツール導入のメリットは以下の通りです。

  • データの一元化:勤怠、給与、人事評価、採用情報などがすべて同じプラットフォームで管理され、データの重複入力や不整合を防ぐ。
  • 検索性の向上:必要な情報に瞬時アクセスできるため、資料作成や問い合わせ対応の時間が短縮される。

また、採用管理システムを用いることで応募者情報、選考進捗、面接官の評価などを一元管理し、採用業務の可視化と効率化も期待できます。

業務のオンライン化・ペーパーレス化の推進

紙ベースの業務プロセスをデジタルに移行することは、コスト削減と効率化につながるだけでなく、働き方改革にも寄与します。

オンライン化・ペーパーレス化の効果は以下の通りです。

  • 電子契約の導入:雇用契約書や秘密保持契約書などをオンラインで締結することで、印刷、郵送、保管のコストと工数をなくす。
  • 勤怠管理のシステム化:タイムカードの集計作業をなくし、データ連携を自動化する。
  • 検索性の向上:資料をデジタル化してクラウドに保管することで、必要な情報をどこからでも確認できる。

マニュアル作成による業務の標準化と属人化の解消

ITツールの導入が難しい定型業務であっても、手順を標準化することで効率化とリスク軽減を図れます。

標準化とマニュアル作成のメリットは以下の通りです。

  • 業務の均質化:誰が担当しても同じ品質で業務を遂行できるようになる。
  • 属人化の解消:担当者が不在時でも、たとえ退職しても業務が滞るリスクを減らせる。
  • 教育コストの削減: 新任担当者への引継ぎや教育にかかる時間を大幅に削減できる。
  • 抜け漏れの軽減:マニュアルに従ってチェック項目を作成することで、業務の抜け漏れを防げる。

アウトソーシングによる業務の外部化

すべての業務を社内で効率化することができれば良いですが、必ずしもそうとは限りません。

自社にノウハウがない、あるいはリソースを割けない業務については、アウトソーシング(BPO)も有効な選択肢です。BPOは他の手法と異なり、業務そのものを社外に移管するため、人事業務の効率化におけるもっとも直接的で手段の一つとなります。

人事業務の効率化でアウトソーシングを使うメリット

ITツール導入や標準化といった手法が「社内の手間を削減する」ことを目的とするのに対し、アウトソーシング(BPO)は、「業務そのものを社内からなくす」という点で他の手法と異なります。

ここでは、人事業務を効率化するにあたって、アウトソーシングすることのメリットを解説します。

業務の「まるごと外部化」で工数をゼロにできる

BPOのもっとも大きなメリットは、委託した業務に関する人事担当者の工数をゼロに近づけられる点です。

ITツールの導入はシステム操作やエラー対応といった新しい手間が発生する可能性があります。

アウトソーシングにより業務そのものを社外に移管することで、社内担当者は進捗確認と承認のみに集中できるでしょう。

特に給与計算や採用の日程調整など、工数がかかるにもかかわらず人事課題に直結しない定型業務をまるごと外部化することで、人事担当者は別の業務に集中できるようになります。

専門知識を持つBPO活用で業務の質を向上できる

BPOは単なる業務の代行ではなく、専門知識とノウハウの導入でもあります。

業務の質向上のうえで以下のような効果が期待できるでしょう。

  • 法令対応:労務関連のプロが業務を遂行するため、最新の法改正にも確実に対応でき法令遵守の質が高まる。
  • 採用戦略:採用BPO(RPO)を活用することで、採用市場に精通したプロが求人要件の策定やスカウト文面を作成するため、優秀な人材の採用可能性が高まる。
  • 人事外の専門知識の導入:例えばIT事業の経験者などをRPOコンサルタントとして利用することでITと人事の両方の深い知見をもった採用ができる。このように採用の精度向上に期待できる。

効率化と同時に業務の質を向上させられるという点が、BPOが他の効率化手法と一線を画すポイントです。

人事業務の「期間集中」「工数集中」を解決する

特に人事業務は、採用期間や年末調整、年末・年度末など時期によってその工数が大きく変動します。

これを人事社員の採用によって補おうとすると、閑散期の工数あまりが懸念となります。

人事業務をアウトソーシングすることは、この工数の変動を外部のリソースで吸収し、人事担当者の年間を通じた業務負荷を平準化することにつながるのです。

採用活動が急激に活発化しても、煩雑な定型業務が増える時期になっても、社内は安定した体制を維持できます。

また、こうした人事に特化した人材を社内育成するには時間がかかります。

しかし外部から協力してもらいながらOJT的に伴走してもらうことで、業務を停滞させることなく内製化を果たすことも可能です。

効率化を求められやすい人事業務の例 

人事業務のなかで、効率化のニーズが高くアウトソーシングやITツールの導入が効果を発揮しやすい業務にはさまざまなものがあります。

ここでは、具体的にどのような人事業務が効率化しやすいのか、また効率化の要求が高いのかを紹介していきます。

給与計算および勤怠管理の事務作業

毎月の給与計算と、それにつながる勤怠データの集計・確認作業は、人事業務のもっとも大きなノンコア業務の一つです。

効率化の必要性は以下の通りです。

  • 削減できる時間が多い:毎月必ず発生し、締め日には必ず工数が集中する。
  • ミスの排除:金銭に関わるため、計算ミスが許されない。
  • 法改正への対応:健康保険料率や税制の改正などに正確に対応する必要がある。

これらの業務は、給与計算システムなどのITツールへの移行、あるいはBPOへのまるごと外部化によって効率化を図るのが一般的です。

入退社時および異動時の社会保険・労働保険手続き

従業員の入社、退社、異動の際には、健康保険や厚生年金、雇用保険といった社会保険・労働保険に関するさまざまな手続きが発生します。

効率化の必要性は以下の通りです。

  • 法令遵守の重要性:手続きには専門知識が必要であり、提出期限も厳格に定められている。
  • 突発的な発生:退職や休職などは突発的に発生するため、業務の予測がしにくい。
  • 紙ベースの煩雑さ:役所への提出が必要なものが多く、ペーパーレス化が難しいケースがある。

最悪なケースでは意図せず違法な状態になってしまうことがありえるため、社会保険や労働保険手続きは効率化という意味だけでなく専門知識をもった人による確実性が重要となります。

これらの手続きは、社会保険労務士が専門としており、労務BPOサービスを通じて委託することで法令遵守を確実にしながら効率化できます。

採用活動における応募者対応・日程調整業務

ITエンジニアなどの専門職採用においては、母集団形成から内定までのオペレーションが大きな工数を消費するものの、「母集団形成しただけ」「日程調整しただけ」では成果につながらない点が問題です。

効率化の必要性は以下の通りです。

  • スピード感が不可欠:優秀な候補者を逃さないために、応募から面接設定までのスピード感が重要。
  • 煩雑な調整の多発:候補者、人事担当者、現場の面接官の三者間での複雑な日程調整が頻発する。
  • コミュニケーションの質の課題:候補者体験(CX)向上のため、応募者への丁寧かつ迅速な連絡が必須。

これらの業務は、採用管理システムなどのITツールの導入や、採用BPO(RPO)への委託によって工数削減と質の向上の両方を実現できます。

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人事業務の効率化を行う真の目的は、単に目の前の業務を減らすことではなく、経営戦略に直結するコア業務に集中できる環境を整えることです。

給与計算や勤怠管理といったノンコア業務の効率化はもちろん大切ですが、競争が激化する採用活動の効率化と質向上は企業の未来を左右します。

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