これからエンジニアを目指す方のなかで、「SES」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。

SESは「客先常駐」という働き方とセットで語られることが多く、両者の違いや関係性が分からず不安を感じている方もいるかもしれません。

しかし両者の意味や関係性を正しく理解すれば、SESエンジニアという働き方が自分に合っているかどうかを判断する材料になります。

この記事では、SESと客先常駐の関係性、そして他の働き方との違いを分かりやすく解説します。

SESとは?客先常駐が基本となる働き方を徹底解説

SES(System Engineering Service)とは、システム開発や保守・運用などのエンジニア技術を提供するサービスのことを指します。

これはクライアント企業のプロジェクトに対して、自社のエンジニアの技術力を提供する契約形態です。そしてこのSESの契約形態で働く場合、エンジニアがクライアントのオフィスに常駐する「客先常駐」という働き方がもっとも一般的になります。

もう少し詳しく確認していきましょう。

まず知っておきたいSES(準委任契約)の定義

SESは「準委任契約」という法的な契約形態で結ばれることが一般的です。

この契約のもっとも大きな特徴は、「成果物」に対して報酬が支払われるのではなく、「労働力」や「時間」に対して報酬が支払われる点にあります。

例えばクライアントが「ECサイトを完成させてほしい」と依頼した場合、SESでは「ECサイトを作るためのエンジニアの技術を、1ヶ月間提供します」という契約になります。

もし1ヶ月経ってもECサイトが完成しなかったとしても、技術を提供した期間分の報酬は得られるのです。この点が、後で解説する「請負契約」との大きな違いになります。

SESと「客先常駐」は密接な関係性がある

「客先常駐」とは、所属する企業ではなく、クライアントのオフィスに常駐して働く勤務形態です。SESではこの客先常駐という働き方が一般的な形態です。その理由は、クライアント側のメリットにあります。

クライアントがSESを利用する場合、自社のプロジェクトチームに即戦力となるエンジニアを迎えたいと考えています。その際、社内のメンバーとの連携を密にとり、スムーズにプロジェクトを進めるためには同じ場所で働くことが効率的です。

また情報セキュリティの観点からも、社外のエンジニアに社内システムへのアクセスを許可する場合、自社のオフィスで監視できる環境を整えたいという思惑があります。このように、クライアント側のニーズとSESの「技術提供」というビジネスモデルがうまく合致しているため、SESは客先常駐になりやすいのです。

具体的な業務内容とプロジェクトでの役割

SESエンジニアの業務内容は多岐にわたりますが、一般的にはクライアント企業のシステム開発プロジェクトにおける、設計、開発、テスト、保守・運用などが主となります。プロジェクトチームの一員として、クライアントの社員や他のベンダー企業のエンジニアと共に業務を進めます。

新卒や未経験者の場合、まずはテストや運用といった下流工程からスタートすることが多く、経験を積むにつれて詳細設計や開発、さらには要件定義といった上流工程へとステップアップしていくのが一般的です。

プロジェクトの規模や内容にもよりますが、開発の進め方や使用する技術スタックはクライアントに依存するため、短期間でさまざまな技術や開発手法に触れられるのが大きな特徴です。

SESのビジネスモデルと市場での位置づけ

SESは「必要なときに、必要な技術力を持ったエンジニアを確保したい」という企業のニーズに応えるビジネスモデルです。特にIT人材が不足している現代において、SES企業は即戦力を提供する重要な役割を担っています。

クライアント企業からすると、プロジェクトごとに必要な人材を柔軟に調達できるため、人件費を抑えながらプロジェクトを効率的に進められるメリットがあります。

またSES企業は複数のクライアントと取引することで、景気に左右されにくい安定した収益基盤を築くことができます。

このように、クライアント、SES企業、エンジニアの三者にとって、それぞれのメリットがあるからこそ、SESという働き方が広く浸透しているのです。

SES・請負・派遣の違いとは?契約形態から見る客先常駐の傾向

IT業界ではさまざまなエンジニアの働き方があり、それぞれの契約形態によって役割や責任範囲が異なります。

ここでは、SESと混同されやすい「請負契約」「労働者派遣契約」との違いを解説します。

請負契約は成果物への責任をもつ

請負契約は、「請け負った仕事の完成」を目的とした契約です。クライアントは「ECサイトを完成させてほしい」と依頼し、エンジニアが所属する企業は、契約期間中にその成果物を完成させて納品する義務を負います。

また請負契約では、クライアントは進捗状況を確認することはできますが、エンジニアに対して直接「この作業をやってください」といった具体的な作業指示を出すことはできません。これは、指揮命令権が発注元にはなく、成果物の完成に責任をもつ請負企業にあるためです。

なお完成した成果物が契約内容を満たしていなければ、再作業を求められることもあります。

労働者派遣契約は派遣先の指揮命令下に入って働く

労働者派遣契約は、派遣元企業に雇用されたエンジニアが、派遣先であるクライアントの指揮命令下に入って働く契約です。

これは、クライアントが直接エンジニアに作業指示を出せるという点で、SESや請負と大きく異なります。

労働者派遣法に基づいて働くため、契約期間に制限(3年ルール)があります。派遣社員はクライアントのオフィスに常駐して働くのが一般的なので、客先常駐の働き方は同じですが指揮命令権が異なります。

参考:厚生労働省「派遣社員を受け入れるときの主なポイント

SES(準委任契約)は技術提供を行う

SESは準委任契約と呼ばれる契約形態で、請負契約とは異なり成果物の完成義務を伴いません。あくまで「技術提供」を目的としています。指揮命令権は労働者派遣とは異なり、請負契約と同じく所属するSES企業にあります。

しかし実態としてはクライアントのプロジェクトチームの一員として働くため、クライアントのチームリーダーや社員から作業の進め方や内容について指示を受けることが多くなります。

この「指揮命令権は自社にあるが、実質的には客先の指示に従う」という点が、SESの働き方をより複雑にしている要因の一つです。結果として、スムーズな連携のために客先常駐が多くなりやすいのです。

指揮命令権とエンジニアの自由度

指揮命令権の所在は、エンジニアの働き方に大きな影響を与えます。労働者派遣契約ではクライアントが直接指示を出すため、比較的業務内容が明確で、担当範囲外の業務を求められることは少ないでしょう。

一方で、SES(準委任契約)は指揮命令権が自社にあるため、クライアントからの直接的な指示は本来受けられません。しかし実務上はクライアントの指示に従うことが多く、法的な建前と実態の間にギャップが生じやすいのが現状です。

エンジニアにとっては自社の裁量で自由に働けるはずが、客先の指示に従わざるを得ないというジレンマに直面することもあります。

責任の所在と働き方のリスク

契約形態によって、仕事の責任の所在が異なります。請負契約では、成果物の完成という明確な責任を負うため、納品に間に合わせるために残業や休日出勤が増える可能性があります。

一方、SES(準委任契約)では成果物の完成義務がないため、期間内にタスクが終わらなくても責任を追及されることはありません。これはエンジニアにとっては精神的な負担が少なくワークライフバランスを良好に保ちやすいという大きなメリットになります。

また、労働者派遣契約では派遣先の指揮命令下で業務を行うため、プロジェクトが失敗しても責任を問われるリスクは少ないと言えます。自分が望む働き方に合わせて、こうした責任の所在も考慮に入れることが重要です。

SESの客先常駐のメリット・デメリットを解説

客先常駐という働き方には、メリットもあればデメリットもあります。

これからSESを検討している方は、客先常駐という働き方が自分に合っているかどうかを判断するために良い面も悪い面も整理して理解しておきましょう。

メリット:組織内部で多様な経験を積める

SESの客先常駐は、一つの会社に所属しながらさまざまなプロジェクトや開発現場を経験できるという大きなメリットがあります。

通常、大手企業や人気のプロジェクトに参加するには、その企業に直接入社する必要があります。しかしSESなら、会社に入社することなくプロジェクトに参画することが可能です。

たとえば、Webサービスから金融システム、ゲーム開発まで、多種多様な経験を積むことができます。特に未経験者や経験が浅いエンジニアにとって、OJTやチームでの業務を通じて、多方面の実践的なスキルを効率的に身につけられる点は大きな利点です。

また、いざ会社に入社してプロジェクトに関わると、別のプロジェクトに移るには異動したり転職しなければならない、ということもあるでしょう。SESの場合は、案件が変わるごとに数年程度でプロジェクトを移り、異なる業界や技術に触れることができます。

デメリット:高い適応力が求められる

SESは定期的にプロジェクトが変わるため、その都度常駐先の新しい人間関係や職場のルール、文化に慣れる必要があります。

例えばオフィスの利用方法や会議の進め方、人間関係の築き方など、細かな部分にも気を配らなければなりません。

また、SESは中間マージンが発生するため、自社でプロダクトをもっている事業会社やフリーランスエンジニアと比べて給与が低い傾向にあると言われることもあります。

これらの課題にうまく向き合うためには、主体的にスキルアップを続けることや、どの現場でも円滑にコミュニケーションを取れるような能力を磨くことが重要となります。

SESエンジニアとして描くキャリアパス

SESエンジニアとして客先常駐を務めながら働くことは、多様な現場を経験し、将来のキャリアの選択肢を広げられる大きなチャンスです。

一つの技術や業界に留まらず、さまざまな経験を積むことで、自身のスキルや適性を見極め、理想のキャリアプランを具体的に描くことができるでしょう。

ここでは、客先常駐のSESエンジニアが歩めるキャリアパスについて解説します。

専門性を高めるスペシャリストへの道

特定の技術分野に深い知見をもつ「スペシャリスト」は、市場価値が非常に高いキャリアパスです。

例えば、AI・機械学習、クラウドインフラ(AWS、Azure)、ブロックチェーンといった需要の高い専門分野を極めることで、特定技術に関するエキスパートとして活躍できます。

スペシャリストを目指すには、業務時間外も活用した自己学習が不可欠です。資格取得や個人開発を通じてスキルを身につけ、希望する案件を営業担当に共有することでより専門的なプロジェクトへのアサインしてもらう機会を得られるでしょう。

マネジメントに進むゼネラリストへの道

プロジェクト全体を管理する「ゼネラリスト」も、SESエンジニアにとって魅力的なキャリアです。

客先常駐を通じてさまざまな開発手法やチーム運営を経験できるため、マネジメントスキルも身についていきます。

将来的にプロジェクトマネージャー(PM)やプロジェクトリーダー(PL)を目指したい場合、現在のプロジェクトで積極的にリーダーシップを発揮したり、メンバーの進捗管理をサポートしたりといった経験を積むことが重要です。

自社開発企業やフリーランスへの転身

SESでの経験は、自社開発企業への転職やフリーランスとしての独立にも大いに役立ちます。

複数のプロジェクトを経験することで、以下のような人材市場で高く評価される能力が得られます。

  • さまざまな開発環境に順応できる適応力
  • 異なる開発環境でもスキルアップできうr技術力
  • 短期間で新しいチームに溶け込めるコミュニケーション能力

特に未経験からスタートしたエンジニアが、SESで実務経験を積み、自社開発企業へステップアップするケースは多く見られます。フリーランスとして独立する場合も、SESで培ったスキルや人脈が、案件獲得の大きな強みとなるでしょう。

なかには、完全にフリーランスとして独立するのではなく、フリーランスSESエンジニアになるという道もあります。

SESのよくある悩みと解決策

SESの働き方が自分に合っているかどうかを判断するためには、メリット・デメリットだけでなく、実際に多くのエンジニアが抱える悩みとその解決策を知っておくことが大切です。

ここでは、給与や帰属意識といった、SESエンジニアが直面しやすい具体的な悩みと、それを乗り越えるための方法を解説します。

給与や評価に対する不満を解消する

SESエンジニアは、客先での労働時間やパフォーマンスが給与に直結しないことがあります。また、自社の担当者が常に自分の成果を確認しているわけではないため、貢献が正当に評価されていないと感じることも少なくありません。

この悩みを解消するには、まずは自身の市場価値を客観的に把握することが重要です。転職サイトやフリーランス向けエージェントサービスなどで、自分のスキルに見合った案件の単価を調べ、会社に給与交渉を行う際の材料にしましょう。

また、会社の評価制度について営業担当者と積極的に話し合い、自分の成長や貢献を定期的にアピールすることも大切です。

なお、フリーランスSESエンジニアになれば会社からの評価ではなく単純に案件単価×還元率で収入が決まるため、不満を軽減できる可能性もあります。

人間関係や帰属意識の希薄さを乗り越える

プロジェクトごとにチームが変わる客先常駐では、案件が変わるごとに人間関係をゼロから築き直す必要があります。

また、自社で仕事をするわけではないため、SES企業への帰属意識が希薄になりがちです。

この悩みを乗り越えるには、プロジェクト内だけでなく、自社のエンジニアや社内イベントにも積極的に参加することが有効です。

社内勉強会や交流会に参加することで、同期や先輩エンジニアとのつながりを深め、自社への帰属意識を高めることができます。

それらに加えて、信頼できる営業担当者やメンターを見つけ、定期的にコミュニケーションを取ることも孤独感を和らげる上で非常に効果的です。

スキルアップが停滞しないようにする方法

SESの現場によっては、特定の技術しか使わずスキルアップの機会が限られることがあります。

これを避けるには、案件選びの段階で自分が将来的に習得したい技術や携わりたい業務を営業担当者に明確に伝えておくことが重要です。

また、案件に依存せず、自主的にスキルアップを続けることも不可欠といえるでしょう。業務時間外にオンライン学習プラットフォームや技術書を使って新しい技術を学んだり、個人開発でポートフォリオを作成したりすることで、常に自分の市場価値を高め続けましょう。

客先常駐のSESでエンジニアのキャリアを築こう

客先常駐という働き方に対して不安に思うことがあっても、それは新しいキャリアを築く上での一時的な不安かもしれません。優良なSES企業は、エンジニアのキャリアを真剣に考え、理想とする働き方を叶えるためにサポートしてくれます。

そういったSES企業はキャリアゴールを目指して一緒にキャリアプランを作成したり、希望に沿った案件を紹介してくれることで不安を解消し、成長を後押ししてくれるでしょう。

私たちKAIZEN Tech AgentもSES企業として、登録してくれたフリーランスエンジニアのみなさんに寄り添った案件紹介を行っています。

私たちはエンジニアのみなさんのキャリアを大切に考え、納得のいく現場で働けるよう全力でサポートします。

SESエンジニアという働き方が自分に向いていそうだと感じるなら、ぜひ弊社を候補として検討してみてください。