「AI開発を外部に依頼したいが、実際にどのような流れで進むのかわからない」「各段階で何を判断すればよいのか不安だ」と悩んでいる企業担当者の方もいるかもしれません。

その不安の正体は、AI開発プロセスが一般的なシステム開発とは異なる特性を持ち、データを中心とした反復的なサイクルで進むという点にあります。

適切な予算や期間の見積もりを行い、プロジェクトを成功に導くには、開発がどのように進むのか、各段階でどのような作業や意思決定が必要なのかを正しく理解することが欠かせません。

この記事では、AI開発プロセスの基本から一般的なシステム開発との違い、構想・PoC・実装・運用の4つのフェーズごとの具体的な作業内容、そして専門会社に依頼する際の流れと成功のポイントについてお伝えします。

AI開発プロセスとは?

AI開発プロセスとは?

AI開発プロセスとは、機械学習モデルやAIシステムを構築するための一連の工程を指します。 従来のシステム開発と異なり、AI開発は「構想」「PoC」「実装」「運用」という4つのフェーズに分かれ、それぞれで異なる目的と作業内容があります。

これは、AIの性能がアルゴリズムだけでなく、使用するデータの質と量に大きく依存するためです。

実際、データ準備には全体作業時間の60〜80%が費やされることが一般的であり、この段階で精度の土台が決まります。

各フェーズでは、データ収集やモデル学習、評価、改善といった工程を繰り返しながら、最終的にシステムを本番環境へ導入し、運用監視を行います。

一般的なシステム開発の違い

結論として、AI開発は「データ中心」、一般的なシステム開発は「機能要件中心」という点で大きく異なります。なぜなら、AIは明示的なルールではなく、データからパターンを学習して動作するためです。

例えば、在庫管理システムでは「在庫が100以下なら発注」という明確なロジックを設計段階で実装しますが、需要予測AIでは過去の販売データから傾向を学習し、将来の発注タイミングを自動的に導き出します。

このように、「ルールで制御するか」「データで学習させるか」が両者の根本的な違いです。

【AI開発と一般的なシステム開発の比較表】

項目 AI開発 一般的なシステム開発
開発の中心 データ(質・量・多様性) 機能要件(仕様書)
開発プロセス 反復的サイクル(実験的) 線形的プロセス(計画的)
成果物の性質 確率的(精度で評価) 決定的(正確性で評価)
変更への対応 データ追加で継続改善 仕様変更で再設計
品質保証 精度・再現率などの指標 テストケースの網羅性
必要な専門性 データサイエンス・統計学 ソフトウェア工学

この比較からもわかるように、AI開発では「試行と検証の反復」を前提とした柔軟な体制が求められます。

 一方で、一般的なシステム開発は要件定義→設計→実装→テストという線形的な流れを重視します。

AI開発に必要なもの

AI開発に必要なもの

AI開発を成功させるには、高品質なデータ、専門人材、そして適切な開発環境の3要素が欠かせません。特にデータの前処理やチーム体制の整備は成果を左右する部分です。次では、それぞれのポイントを詳しく見ていきましょう。

十分な量と質のデータ

高精度なAIを構築するには、多様で偏りの少ない高品質なデータが不可欠です。なぜなら、AIモデルは学習データのパターンを模倣するため、データの質がそのまま予測精度に直結するからです。

例えば、顧客の購買行動を予測するAIを開発する際、特定の年齢層や地域に偏ったデータで学習すると、他のセグメントに対する予測精度が著しく低下します。

また、欠損値の補完、外れ値の処理、ノイズ除去といったデータ前処理の精度も、モデル性能に大きな影響を与えます。こうした地道な作業によって、予測精度が数パーセント以上向上することも珍しくありません。

さらに、データが不足している場合は、外部データの購入やデータ拡張、合成データの活用といった手段も検討すべきです。結論として、データの量と質への投資こそが、AI開発の成否を左右する最重要要素と言えるでしょう。

AIに精通した人材やチーム体制

AI開発を成功に導くには、データサイエンティストや機械学習エンジニアなど、専門人材の確保が不可欠です。モデル構築においてはアルゴリズムの選定やハイパーパラメータの調整、モデル評価といった高度な専門知識が求められるからです。

理想的な役割分担としては以下の通りです。

  • データサイエンティスト:モデル設計と性能評価
  • MLエンジニア:モデルの実装、デプロイ、運用
  • ドメインエキスパート:ビジネス要件の明確化

さらに、ビジネス部門と技術部門が連携し、共通のゴールに向かう体制が不可欠です。技術者だけでは事業課題を見失う可能性があり、ビジネス側だけでは実現可能性の判断が難しくなります。

このため、外部パートナーの活用と社内スキル向上を両立させるハイブリッド型アプローチが有効です。

適切なインフラ環境とツール

AI開発には、大規模な計算処理を支える計算資源と、柔軟なクラウド環境が必要です。とくに、深層学習モデルの訓練では、通常のサーバーでは数週間かかる処理が、GPU環境では数時間で完了します。

そのため、AWS、Google Cloud、Azureなどのクラウドサービスを活用することで、必要なときに必要なだけのリソースを柔軟に確保できます。

さらに、MLOpsツールやフレームワーク(例:TensorFlow、PyTorch、MLflowなど)を導入すれば、実験管理、モデルのバージョン管理、デプロイなどのプロセスを自動化し、開発効率を大幅に向上させることが可能です。

セキュリティやコストの観点も踏まえて、ビジネス規模に応じたインフラ戦略を構築することが求められます。

AI開発プロセスをフェーズ別に解説

AI開発プロセスをフェーズ別に解説

AI開発は「構想」「PoC」「実装」「運用」という4つのフェーズに分かれます。それぞれの段階で目的と判断基準が異なり、進行のコツも変わります。次では、各フェーズでの具体的な取り組み内容を見ていきましょう。

1. 構想フェーズ

構想フェーズでは、AI導入の目的を明確にし、解決すべき課題を整理することが最優先です。目的が曖昧なまま進めると、技術が先行し、ビジネス価値につながらないリスクが高まります。

以下の要素を明確にすることが重要です。

  • 解決すべき経営課題とビジネス目標
  • 成果指標(KPI)と成功基準の定義
  • 必要なデータの種類・量・取得方法
  • 要求される精度と利用環境

例えば「在庫最適化AI」の場合、「過剰在庫を30%削減する」といった具体的なKPIを設定し、過去3年分の販売データや季節要因の特定が必要となります。

このように、丁寧な要件整理が後続フェーズの効率と成果を左右します。

2. PoC(概念実証)フェーズ

PoCフェーズでは、小規模なデータを用いて、技術的な実現性とビジネス効果を低コストで検証します。本格開発前に投資判断を行うための重要なステップです。

例えば、特定部門の1000件の顧客データを用いてモデルを構築し、予測精度や処理速度を評価します。目的は、完璧なシステムではなく、定量・定性の効果を把握することです

精度80%以上であれば本格開発へ、未達なら課題を洗い出して再検討します。このフェーズは、「Go/No-Go」の判断に直結する重要な分岐点です。

3. 実装フェーズ

実装フェーズでは、PoCで得た知見を活かし、本番用AIモデルを構築します。プロトタイプと異なり、本番環境ではデータ量・処理速度・セキュリティ要件が格段に高まるためです

具体的には、全データでの再学習、API開発、既存システムへの統合を行い、運用可能な形に仕上げます。例えば、PoCの需要予測モデルを基幹システムと連携させ、リアルタイムで発注提案を実行する仕組みに発展させます。

また、個人情報の保護や操作性への配慮など、運用を見据えた設計も欠かせません。実装フェーズは、ビジネス価値を具現化する要となる工程です。

4. 運用フェーズ

運用フェーズでは、AIモデルの精度やパフォーマンスを継続的に監視する体制が求められます。なぜなら、データの変化により精度が劣化する「モデルドリフト」が避けられないためです。

例えば、精度が85%から75%に低下した顧客離反予測モデルに対し、新しいデータで再学習を実施します。

また、ダッシュボードでのKPI監視や、アラート発報の仕組みも整備します。障害対応、定期更新、ユーザーフィードバックの収集など、運用保守体制の構築が不可欠です。運用フェーズは、AIの価値を持続させるための生命線です。

参考:IBM

AI開発のプロセスを成功させるポイント

AI開発のプロセスを成功させるポイント

AI開発を確実に成功させるには、技術よりもまず「課題起点の設計」が重要です。加えて、データ準備への投資と段階的な検証プロセスが成果を左右します。次では、成功企業が実践する3つのポイントを紹介します。

ビジネス課題を起点に設計する

AI開発を成功させるには、技術からではなく「解決すべきビジネス課題」から逆算して設計を行うことが不可欠です。AIはあくまで手段であり、目的ではないため、課題が曖昧なまま進めると方向性を見失うリスクが高まります。

例えば、「顧客離反率を15%削減」「在庫回転率を20%向上」といった具体的なKPIを設定することで、課題と成果を明確に結びつけることができます。これにより経営層の納得感が得られやすく、予算承認も円滑に進むでしょう。

実際に、オペレーターの応対時間短縮という課題に対し、チャットボットの導入で平均応対時間を98%削減した事例もあります。

したがって、技術を起点とするのではなく、常にビジネス課題を出発点として設計を進めるべきです。

参考:日経クロステック

データ準備に十分なリソースを割く

AI開発において、データ収集・加工が開発コストの大部分を占めることを理解する必要があります。

モデル構築自体は適切なフレームワークを使えば比較的短時間で完了する一方で、データの品質がAIの性能を直接左右するためです。

具体的には、以下の作業に十分な時間とリソースを投入します。

  • データの収集と統合
  • 欠損値や異常値の処理
  • 特徴量エンジニアリング
  • データのクリーニングと正規化

データ準備では、複数のデータソースを統合し、不要データを除去して学習に適した形に整える必要があります。欠損値の補完方法や外れ値の扱い方によって、最終的なモデル精度が大きく変わることも珍しくありません。

さらに、データ体制を整備することで長期的なAI活用が可能になります。したがって、データ準備への投資は決して省略できない重要プロセスです。

小さく試して段階的にスケールする

AI開発では、まずは小規模PoCでリスクを抑えて検証することが賢明なアプローチです。なぜなら、初めから全社展開を目指すと、失敗時の損失が大きく、また技術的な課題や運用上の問題点を早期に発見できないためです。

具体的には、特定部署や限定的な業務範囲で試験導入し、精度や使い勝手を確認してから徐々に拡大します。小規模な範囲であれば、データ収集やシステム連携の課題、ユーザーの受け入れ状況なども早期に把握できるでしょう。

このように成果を確認しながら徐々にスケールアップすることで失敗を回避できます。さらに、段階的導入は社内の理解促進や人材育成にもつながり、AI活用の文化を組織に根付かせる効果もあります。

したがって、焦らず着実にステップを踏むことが長期的な成功につながります。

AI開発を専門会社に依頼するときの流れ

AI開発を専門会社に依頼するときの流れ

外部にAI開発を依頼する場合、相談から納品までの流れを理解しておくことが重要です。スムーズな進行には、初期段階での要件共有とPoCによる検証が鍵となります。次項で、依頼の具体的ステップを見ていきましょう。

1.初期相談と課題整理

初期相談では、現状の課題をヒアリングし、AI活用の方向性をすり合わせることが最優先です。なぜなら、この段階で認識にズレがあると、後工程で大きなトラブルにつながる可能性があるためです。

具体的には、以下の情報を明確に共有することが重要です。

  • 解決したいビジネス課題とその背景
  • 利用可能なデータの種類と量
  • 予算およびスケジュールの制約
  • 期待する成果指標(KPI)

例えば、「営業効率を上げたい」といった抽象的な要望ではなく、「商談成約率を20%から30%に向上させたい。過去3年分の商談データが5万件ある」といった具体的な情報を伝えることで、ベンダーは適切な提案を行いやすくなります。

双方の認識を初期段階で揃えることで、後のトラブルを未然に防ぐことができます。したがって、初期相談では遠慮せず、できる限り詳細な情報を共有することが重要です。

2.提案・見積もりの受領

提案フェーズでは、ベンダーから提示される技術アプローチや費用感を正確に把握し、比較検討を行います。AI開発は手法や技術スタックによってコストや精度が大きく異なるため、複数の選択肢を検討することが重要です。

具体的には、提案書に含まれる以下の点を確認します。

  • 使用する技術と開発手法
  • 必要な開発期間
  • 見積もり金額
  • 実績や体制の妥当性

例えば、A社は深層学習を用いて高精度なモデルを開発可能だが、開発期間は6ヶ月、費用は1500万円。一方、B社は従来手法で精度はやや劣るが、3ヶ月・800万円で提案しているとします。こうしたケースでは、自社の優先事項(予算、精度、納期など)に照らして選定します。

また、契約前に成果物の範囲、スケジュール、保守内容を明確にしておくことで、後のトラブルを回避できます。したがって、提案内容は慎重に評価し、自社に最適なパートナーを選ぶことが不可欠です。

3.PoC実施と評価

PoC(概念実証)フェーズでは、小規模な実証実験を通じて、AIの技術的実現性とビジネス効果を検証します。これは、本格開発に多額の投資を行う前に、リスクを最小限に抑えるための重要なプロセスです。

例えば、需要予測AIのPoCでは、過去1年分のデータを使ってモデルを構築し、直近3ヶ月の予測精度が目標の85%以上となるかを確認します。

この際、成功・失敗を感覚的に判断するのではなく、あらかじめ設定した評価指標に基づき、定量的に評価することが重要です。

PoCの結果に基づいて、本格開発へ進むか、再検討するかの意思決定を行います。したがって、PoCは投資判断の分岐点となる重要なフェーズです。

4.本格開発と納品

本格開発フェーズでは、PoCの結果をもとに、本番環境で稼働可能なAIシステムを構築します。PoCはあくまで検証段階であり、実務で安定稼働させるにはさらなる開発が必要です。

具体的には、以下のような作業が含まれます。

  • 全データによるモデル再学習
  • API開発とシステム連携
  • ユーザーインターフェースの構築
  • 負荷テストやセキュリティチェック

例えば、PoCで精度を確認した画像認識AIを、製造ラインに組み込み、リアルタイムで不良品を検出する仕組みを構築します。

また、運用マニュアルの整備や、納品後の保守契約(精度監視・モデル更新など)も重要です。

 納品はゴールではなく、あくまで運用のスタート地点です。長期的な価値を生み出すためにも、継続的な改善を視野に入れた体制構築が求められます。

AI開発はプロセス全体を理解して進めることが重要

AI開発を成功させるには、専門的な知識と経験を持つパートナーとの協力が欠かせません。自社の課題や目標を明確に共有し、信頼できる開発会社と連携することで、プロジェクトの成功率は大きく高まります。

この記事では、AI開発プロセスの基本から一般的なシステム開発との違い、構想・PoC・実装・運用の4つのフェーズごとの具体的な作業内容、そして専門会社に依頼する際の流れと成功のポイントまでを網羅的に解説しました。

特に重要なのは、ビジネス課題を起点とした設計と、データ準備への十分なリソース配分、そして小さく試して段階的にスケールするアプローチです。

初期相談での要件共有の徹底、PoCによる実現可能性の検証、運用を見据えた体制構築は、失敗を防ぐための重要なチェックポイントです。

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