少子高齢化が進む現代において、企業成長の鍵を握るIT人材の採用競争を生き残るためには、人事のアウトソーシング(BPO:ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を戦略的に活用し、社内リソースをコア業務に集中させることが不可欠です。
人事BPOは単なるコスト削減策ではなく、業務の品質向上とリスク管理、そして人事部門の戦略的な変革を継続的に実現するための重要な手法です。
本記事では人事BPOの基本的な定義から、委託できる業務範囲、採用BPOを選定する際の注意点までを解説します。この解説を、ぜひ自社の採用課題を解決し、人事業務を戦略的に改善するための参考にしてください。
人事業務のアウトソーシングとは

人事業務のアウトソーシング(人事BPO)とは、企業の人事業務プロセスの一部またはすべてを外部の専門企業に委託することです。
アウトソーシングする業務には、給与計算や勤怠管理といった定型業務だけでなく、採用活動や研修運営などの専門的な業務も含まれます。
企業がこのサービスを利用するもっとも大きな目的は、人事の戦略的価値を高めることにあります。外部の専門知識と効率的なシステムを活用することで、社内の人事リソースを解放し、経営戦略に直結するコア業務に集中できる体制の構築に役立ちます。
人事業務のアウトソーシングと人材紹介・派遣との根本的な違い
人事のBPOは人材サービスの一種として見られることもありますが、人材紹介や人材派遣とは契約の性質が異なります。
人事業務のBPOは、給与計算プロセスや採用プロセスといった「業務そのもの」を外部に切り出すため、委託された企業は、その業務の計画、実行、結果に責任をもつことになります。
つまり、単に人を紹介してもらったり、労働力を提供してもらったりする人材紹介や人材派遣とは異なり、「業務機能そのもの」を外部に委ねるという点で根本的に異なります。
人事業務は「ノンコア業務」のアウトソーシングを中心に設計する
人事のBPOを導入する際の基本的な考え方は、業務を「コア業務」と「ノンコア業務」に分け、ノンコア業務を外部に委託することにあります。
コア業務とノンコア業務の違いは以下の通りです。
- コア業務(戦略的業務):人事戦略の立案、組織開発、優秀な人材の採用戦略策定、経営層への進言など、企業価値創造に直結し、社内ノウハウが不可欠な業務。
- ノンコア業務(定型業務):給与計算、勤怠管理の集計、社会保険の手続き、入社時書類の整備など、戦略的ではないが、正確性・法令遵守が必須の定型的な事務作業。
社内の知見が不可欠で経営判断に直結する業務がコア業務であり、それは委託しないほうがいい、と考えておけば問題ありません。
人事関連のBPOのなかでも特に採用BPOは経営戦略的な要素をもつ業務ですが、そのなかでも特に母集団形成や日程調整などの「実行・事務」の部分はノンコア業務に分類できます。
人事BPOは、給与計算や勤怠管理といった労務事務を中心にアウトソーシングを設計することで、社内リソースをコア業務である採用戦略の策定などに振り向けられるようにすることが重要です。
人事業務のアウトソーシングがなぜ注目されているのか
現代の企業経営において人事BPOが不可欠な手法として注目される背景には、さまざまな外部環境の変化があります。
- 法令改正への迅速な対応:働き方改革関連法や社会保険関連の法改正が頻繁に行われ、企業が自力ですべての最新情報に対応し正確に手続きを行うことは困難。専門業者に委託することで、コンプライアンスリスクを低減する。
- 採用競争の激化:少子高齢化に伴う労働人口の減少により、ITエンジニアなどの専門人材の採用競争が激化している。採用活動に人的リソースを割くためにも、定型業務を外部に委託する必要性が高まっている。
- 人事部門の役割変化:人事部門は、単なる管理部門から経営戦略を実現するための戦略パートナーへと役割を変化させている。この役割を果たすためにも、日常の雑務から解放されることが求められている。
外部の専門知識が企業の持続的な成長につながるという認識が広まった結果、人事BPOの重要性が高まってきたといえるでしょう。
人事アウトソーシングで依頼できる仕事内容

人事アウトソーシングで委託できる業務は広範囲に及びます。ここでは、どのような業務を委託できるか具体的に確認していきましょう。
これらの業務を外部に任せることで、社内の人事担当者は人事が本来もつべき戦略的な課題に専念できるようになります。
給与計算・勤怠管理
毎月、正確性がもっとも求められる給与計算業務は人事アウトソーシングの委託業務としてある意味では定番といえます。
- 給与計算:毎月の基本給、各種手当、控除額などの正確な計算、賞与計算、退職金計算
- 勤怠管理:社員からの勤怠データの集計・チェック、残業時間、有給休暇残日数などの管理
これらの定型業務は工数がかかる上にミスが許されません。専門業者に委託することで計算ミスや情報漏洩のリスクを低減し、人事担当者の精神的な負荷を軽減できます。
煩雑な社会保険・年末調整手続き
法令知識が必要で、かつ季節的に業務量が集中する業務も、アウトソーシングに適しています。
- 社会保険手続き:入社・退社時の健康保険、厚生年金保険の資格取得・喪失手続き、育児休業、傷病手当金などの申請手続き
- 労働保険手続き:労働保険の年度更新業務
- 年末調整:従業員からの申告書回収、控除額の計算、源泉徴収票の発行
社会保険や年末調整は、特に年度の変わり目や年末に業務量が急増します。この繁忙期だけ業務を外部に委託することで、社内の人事部門は人事の採用などで人を増やすことなく業務負荷を平準化できます。
正社員の採用で解決しようとすると、閑散期に人余りになるリスクがありますが、RPOなら必要な時期だけリソースを確保できるのです。
採用に関わる母集団形成から選考まで
採用BPO(RPO)として、企業の採用活動そのものを代行することも人事アウトソーシングの重要な領域です。
以下のような採用業務を委託できます。
- 母集団形成:求人媒体の選定、求人票の作成、出稿管理、ダイレクトリクルーティングにおけるスカウトメールの作成・送信
- 選考プロセス:応募者受付、応募書類の管理、面接日程調整、企業方針に基づいた一次選考(書類選考、適性検査)の実施
特にIT人材の採用では、専門知識をもったRPOコンサルタントが人材要件の策定から関与し、実際の選考まで行ってくれるため、採用の質が向上することが期待できます。
研修・人事評価制度設計の業務
定型的な事務業務や採用代行業務だけでなく、人事企画系の業務を委託できるアウトソーシングサービスもあります。
依頼できるのは以下のような研修・人事業務が代表的なものです。
- 研修業務:新入社員研修や階層別研修のコンテンツ作成サポート、研修会場の手配や、参加者への連絡といった運営サポート
- 人事評価制度:評価制度の設計、改定時の資料作成サポート、評価結果の集計、分析といった事務的なサポート
すべてのRPO業者がこれらのサービスを提供しているわけではありませんが、採用代行から一気通貫して提供している企業もあります。
採用BPOを依頼しつつ、その後の教育や評価制度設計も1社に任せるのか、それとも別々の専門業者に任せるのかは企業の管理方針によって検討が必要です。
人事アウトソーシングを導入するメリット

人事業務のアウトソーシングは、IT人材採用の難しさに直面している企業にとって現状の課題を解決する強力な手法となります。
ここでは、人事BPOを導入することで得られる具体的なメリットを課題解決の視点から解説します。
経営戦略に関わるコア業務へリソースを集中させられる
人事BPO導入のもっとも重要なメリットは、社内リソースを戦略的な活動に振り向けられることです。
- 戦略的な人事への転換:ノンコア業務を外部に委託することで、人事担当者は企業の経営戦略を実現するための人事戦略の立案や、組織開発といったコア業務に時間と労力を集中させられる。
- 優秀な人材の採用戦略:特にIT人材の採用においては、母集団形成や日程調整などのノンコア業務をアウトソースし、人事担当者が最終面接や採用ブランディングといった「人」にしかできない戦略的な業務にリソースを割けるようになる。
コア業務に集中することは、人事が「ただの事務処理部門」から「企業成長の戦略部門」へと役割を変革するための重要なステップになるでしょう。
人事労務における法令遵守と正確性の向上
人事労務は専門知識が求められ、法令違反や計算ミスが企業に大きなリスクをもたらす領域です。
- 最新の法令への対応:専門業者は、常に最新の法改正情報を把握しており、業務プロセスに迅速かつ確実に取り入れることができる。これにより、企業はコンプライアンスリスクを最小限に抑えられる。
- 正確性の担保:給与計算や社会保険手続きといった正確性が求められる定型業務を、専門のシステムとノウハウをもつ外部のプロフェッショナルに依頼することでミスや手続き漏れを大幅に削減できる。
法令遵守と正確性の向上は、企業に対する内外からの信頼を高めることにもつながる重要なメリットといえるでしょう。
採用活動などの業務負荷の平準化とコスト最適化
人事労務や採用活動には、季節的な業務負荷の集中が避けられませんが、BPOの活用によりこれを解消できます。
- 業務負荷の平準化:年末調整や採用の繁忙期など、業務負荷が集中する時期にのみ外部リソースを活用することで社内担当者の突発的な残業や疲弊を防ぐ。
- コストの最適化:人事として正社員を雇用する際には福利厚生費や教育費といった固定費が常に発生するが、BPOは必要なとき、必要なだけサービスを委託できる。
特に専門性が高いIT人材を採用するために、人事部門の採用担当者を増やしたりIT知識を教育するよりも、IT専門の採用BPOに依頼するほうが結果としてコストを最適化できることがは多々あります。
採用BPOの選定時のポイント

人事アウトソーシングのなかでも、特にIT人材の採用課題を解決するための採用BPO(RPO)を選定する際はその専門性を見極めることが重要となります。
ここでは、自社の課題解決に本当につながる採用BPOを選定するためのポイントを3つ解説します。
委託先の「IT人材採用の実績」を具体的に確認する
採用BPOを選定する際、事業者側が「IT人材の採用に強い」と謳っていても、その実績が抽象的では判断できません。自社が抱える課題解決につながる具体的な実績を確認することが重要です。
確認すべき実績は以下の通りです。
- 採用実績:過去にどのようなIT企業・部門で、どのような職種(SE、PM、インフラエンジニア、データサイエンティストなど)の採用に成功したか。
- 採用規模:どれくらいの規模(月間〇名、年間〇名)の採用を代行し、歩留まり率をどれくらい改善したか。
- 採用チャネル:IT人材がターゲットとなる独自の採用チャネルやダイレクトリクルーティングにおけるスカウトの成功事例をもっているか。
自社の採用ターゲットと同じ領域での具体的な成功事例をもつ採用BPOを選ぶことで、導入後のミスマッチを避けることができます。
採用プロセスにおける「連携と報告のルール」を事前に明確化する
RPOは採用業務の実行を担いますが、最終的な採用決定権は企業がもつため、RPOと社内との間でスムーズな連携が不可欠です。この連携ルールが曖昧だと、選考の停滞やトラブルの原因となります。
明確化すべきルールは以下の通りです。
- 報告頻度と形式:進捗状況(スカウト送信数、応募者数、面接設定数など)をいつ、誰に、どのような形式で報告するか。
- 社内承認フロー:求人票の修正や採用チャネルの変更など、RPOが動く前に社内のどの役職者の承認が必要か。
- 面接官への対応:RPOが面接官の日程調整やフィードバック依頼をどのように行うか。
これらのルールを契約前に文書化しておくことで、RPO導入後の業務の抜け漏れや停滞を防ぐことができます。
自社の「採用ブランディング」を理解し提案できるかを見極める
特に高度なIT人材は、単に条件が良いという理由だけでなく企業の理念や技術的な魅力に共感して応募する傾向があります。RPOが、単なる事務作業の代行ではなく、自社の採用ブランディングを理解し、それを候補者に伝えられるかどうかが重要といえるのです。
提案内容について以下の視点でもチェックしてみましょう。
- 企業の技術的な強みや組織文化をヒアリングした上で、それをどのように求人票やスカウト文面に反映させるかという具体的な提案があるか。
- 候補者への連絡文や面接前の情報提供を通じて、企業の魅力を高める工夫を提案しているか。
自社の魅力を客観的かつ効果的に言語化し候補者に伝えられるRPOは、採用成功に直結する戦略的なパートナーとなります。
人事業務のアウトソーシング導入における失敗事例と注意点

人事アウトソーシングはさまざまなメリットをもたらしますが、導入方法を誤ると予期せぬトラブルや業務効率の悪化を招くことがあります。
ここでは、導入後のミスマッチを防ぐため企業担当者が注意すべき具体的なポイントを解説します。
社内にノウハウが蓄積されない「ブラックボックス化」のリスク
業務を外部に委託した結果、その業務に関する知識やノウハウが社内から失われてしまうリスクがあります。
リスクの具体例は以下の通りです。
- 給与計算の業務フローや特別なルールがRPO担当者しか分からなくなり、契約終了後に社内で業務を引き継ぐことができなくなる。
- 採用活動において、なぜ成功したのか、なぜ失敗したのかというデータ分析結果や戦略の中身が社内に残らず、次に活かせない。
これを回避するためには、RPOとの契約時に業務フローやマニュアルを定期的に更新し、社内に共有することを義務付けることが重要です。また、社内担当者をRPOチームにアサインし、ノウハウをOJT形式で取得させる「伴走型」の運用を推奨するようにします。
業務を丸投げするのではなく、RPOからノウハウを学ぶという姿勢をもつことが重要です。
また、なかにはそもそもノウハウを共有しようとしない業者もいますが、そのような業者は選定対象に入れてもすぐに検討から排除することをおすすめします。
委託範囲の曖昧さによるトラブル
人事BPOや採用BPOの導入でもっとも多いトラブルの原因は、契約時の委託範囲の曖昧さです。
トラブルの具体例は以下の通りです。
- 「応募者対応」を委託したのに、「一次面接の実施」が含まれているか否かで意見が対立する。
- 報告書の作成頻度や、緊急時の対応ルールが未定義で、業務の抜け漏れが発生する。
これらを回避するためには、以下のような対策を行いましょう。
- 契約書に「どこからどこまでを依頼するか」という業務の境界線を、工程図などで明確に記載します。
- 報告・承認のルール、緊急連絡体制、対応時間外のルールなども、想定されるケースを基に細かく明確化します。
委託範囲が曖昧な状態でスタートすると、結果として社内担当者がフォローに追われることになり、業務負荷の軽減というメリットが失われてしまいます。
アウトソーシング先の情報セキュリティ問題
給与計算や採用活動のデータには、従業員の氏名、住所、給与額といった機密性の高い個人情報がすべて含まれます。そのため、委託先の情報セキュリティ体制はもっとも厳しくチェックすべき項目です。
確認すべきポイントは以下の通りです。
- 認証取得:委託先がISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)やプライバシーマークといった公的なセキュリティ認証を取得しているか。
- データ管理体制:データの保管場所、アクセス権限、データの破棄方法などが適切に管理されているか。
- インシデント対応:万が一、情報漏洩が発生した場合の対応プロセスが明確になっているか。
コストが安いという理由だけでRPOを選定するのではなく、信頼できるセキュリティ体制をもつ業者を選ぶことが、企業の信頼を守る上で不可欠です。
採用BPOをお探しならKAIZEN Tech Agentへ
高度なIT専門人材の採用は、現代の企業が成長するために避けて通れない課題です。この採用難という大きな壁を乗り越え、組織の成長を実現するためには、ノンコア業務を外部の専門業者に委託する採用BPO(RPO)の活用が不可欠です。
KAIZEN Tech Agentは、IT人材採用に特化したRPOサービスを提供しており、貴社の採用課題を根本から解決します。
採用難やミスマッチなどの人材課題を解決するための最初の一歩として、KAIZEN Tech Agentへぜひご相談・ご登録ください。
